WP004 ダウンロード

  • Working Paper ID
    • WP004
  • Working Paper 名
    • アントレプレナー・オリエンテーションが製薬企業の臨床開発へ与える影響〜遠い空の向こうにある承認を目指して〜
  • 作成年月
    • 2019年9月
  • 著者 (所属・作成時)
    • 松田 大 (早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター 招聘研究員)
    • 吉岡(小林) 徹 (一橋大学イノベーション研究センター 講師)
    • 牧 兼充(早稲田大学大学院 経営管理研究科准教授)
  • 著作権保持者
    • 早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター・科学技術とアントレプレナーシップ研究部会
  • 概要
    • 製薬企業の臨床開発において、製造販売承認を取得し、上市に至る割合は9.6%に過ぎない。一般に製薬企業の創薬開発力においては、上流と下流で影響を与える要因が大きく異なっている。上流段階では、運や偶然に左右される部分があるものの、下流段階の後期臨床開発では、組織的なマネジメントが成果に影響している。組織マネジメント能力の根底には、困難を乗り越える姿勢および行動といったアントレプレナー・オリエンテーション(以下、EO)が影響を与えていると考えられる。そこで本研究では、EOが製薬企業の新製品開発へどのような影響を与えているか検討することを目的とする。
      本研究では2つの分析を実施した。第一の分析では、新薬をグローバル開発している製薬企業29社を対象とし、2004年以降の米国における新製品の累積承認数に対して、EOの3つの要素であるイノベーティブであること、プロアクティブであることおよびリスクを取る姿勢があることがどのような影響を与えるかについて、パネル・データを用いた固定効果モデルによる重回帰分析を行った。その結果、イノベーティブであることおよびリスクを取る姿勢があることは、新製品の累積承認数の増加と有意な正の関連性を示した。
      また、バイオテック企業は成長速度が早く、分析結果に大きな影響を与える可能性がある。そこで第二の分析では、探索的な分析として、バイオテック企業を除いた場合もしくはバイオテック企業のみで構成されるパネル・データを用いて同様の分析を実施した。その結果、バイオテック企業を除いた場合はリスクを取る姿勢が、またバイオテック企業のみの場合はリスクを取る姿勢があることおよびイノベーティブであることが、新製品の累積承認数の増加と有意に正の関連性を示した。以上から、イノベーティブであることおよびリスクをとる姿勢があることは米国における新製品の累積承認数を増加させることが示唆された。
      本研究が実務へ与える示唆として2点が考えられる。まず、イノベーティブであることに対売上高研究開発費比率を設定した。外部リソースを活用することは短期的な対売上高研究開発費比率の上昇を抑制する期待がある。しかし、過度な外部リソース依存は社内に経験値が蓄積されにくく、長期的には新製品の累積承認数を押し下げる影響がある。したがって、全てを外部リソースに依存するのではなく、社内で経験を蓄積するために組織横断的な学習サイクルを機能させるためのシステム構築が製薬産業のライフサイクル・マネジメントにとって、必要不可欠であると考える。もう一点はリスクを取る姿勢の重要性が示された。一般にバイオテック企業はリスクを取る姿勢が高いが、本研究ではバイオテック企業を除いた場合においてもリスクを取る姿勢があることが新製品の累積承認数の増加と正の関連性があることを認めた。したがって、不確実性の高い製薬企業の市場環境において、他社に先駆けてリスクを取れる組織体制が求められると考える。

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