[ STE Relay Column : Narratives 181]
平井 基弘「大海に出ていくための道具と仲間を授けてくれたEBM」

平井 基弘/ 早稲田大学大学院経営管理研究科

[プロフィール]大阪市立大学工学部、京都大学大学院工学研究科の後、海運会社の川崎汽船(株)に2010年入社。
自動車船事業に11年間(内2年4か月のタイ駐在)携わった後、2021年から経営企画部。
2022年からWBS(早稲田ビジネススクール)夜間主総合に入学。2022年現在、平日昼は仕事、夜と土曜は大学生活。

はじめに

 2022年度にWBS入学し、初めてのクォーターでこのEBM(Evidence Based Management)という講義に出会えたことは幸運だった。科学的思考や論文内容を仕事に生かせるようになりたいと履修を決めたが、それ以上のモノを得ることができ、この講義は自分にとって、人生の転機の一つになると感じている。EBMで得たことを①道具、②仲間、③自分の3点で紹介したい。WBSに現在通う方、今後WBSに入学され、EBMに興味がある方にも参考になれば幸いです。

➀道具:質の高い論文と講義を通して得られる道具(=知識)とその使い方を得られる

 初日に牧さんからは「この講義は魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教える講義である」との説明があった。この言葉に偽りはなく、常に知識だけでなく、知識の習得の仕方、知識の活かし方、そして活かさない知識に価値はないと牧さんは伝え続けてくれた。
 講義では全8日(15回)の講義で合計24本の英語の論文に触れることになる。この24本の論文内容は素晴らしい。“プロジェクトで中間成果を求めると最終成果物の完成度は高くなるものの、小さなアイデアになってしまう”とか「心当たりがある」と自分も感じていたような仮説を科学的に証明する論文が次々と提供され、全ての論文の内容に引き込まれていく。中には複雑な数式を用いた論文も含まれるが、読み解いていくとその苦労を必ず超える論文が厳選されている。
牧さんはこのような論文を自分自身で見つける方法や論文との向き合い方を惜しげもなく教えてくれる。「この結論って本当に全てのケースで当てはまりますか?もっとこの論文をよくするにはどうしたらいいですか?この論文のどこがおもしろくて、どこにつっこみどころがありますか?」知の巨人が書いた論文に対して、疑いを持ち、受講生が対等に向き合い、そこから知識を吸収することを牧さんの絶妙な質問が手助けしてくれる。正に魚を与えるのではなく、釣り方と更にその釣り方を改善する方法を教えてくれる。
 この講義はここでは留まらない。「それではみなさんはここで学んだ知識を実際の業務でどのように生かしますか?実際に何に生かしましたか?もう先週の講義から1週間経ちました。1週間あってできない人は半年あってもできません。」厳しい言葉が胸をえぐる。牧さんは魚を釣りに行くことを後押ししてくれる。
EBMは“釣り竿を与えてくれ、良質な魚を自ら見つけ、どのように釣るかを学ぶことができ、更に実際に釣りに行くことを後押ししてくれる講義”だった。

➁仲間:論文を読み込むというプロジェクト(=講義)を介して、健全な仲間ができる

 WBSは多様な背景(=ダイバーシティ)を持った人たちと積極的に意見を出し合って(=アクティブラーニング)、学びを最大化すること(ピアエフェクト)目指しているが、EBMは正にそれを実現している講義で、その講義を通して素晴らしい仲間ができる。その理由を3つ記載する。
1つ目は講義に貢献するという覚悟を持った学生が集まるコミュニティであること。この講義を申し込むと大量の資料が牧さんから送られてくる。そして、講義初日終了までに「この講義は負荷が高いですがやり切る覚悟はありますか?皆さんで作り上げていく講義ですが貢献する意思はありますか?」と、何度も覚悟を確認される。この覚悟のプロセスが講義に対する受講生の責任感を高め、刺激的な学びの空間の土台ができる。
 2つ目は論文を介した議論(=プロジェクト)を介して、お互いを知ることができること。講義では英語の論文を事前に読み込んだ代表者が前で内容を発表し、他受講生が質問や自分の意見をぶつけ議論を積み上げることで、論文から知識を搾り取り、更に昇華させていく。これを一つのプロジェクトと捉えると、ファシリテーターの牧さんはPMO、議論のベースを作る発表者は正に実行責任者、議論の質を高める質問、他受講生はそれぞれの背景を含め議論を高める専門家として参加しているといえる。24本の論文を介した24回のプロジェクトを通して、受講者はお互いの強みを知ることができる。
 3つ目は受講生同士で協業の達成感、成功体験を得ることができること。協業した受講生の間には一人で考えるよりも、多人数で意見を出し合い、積み上げることでより良い議論になるという共通の成功体験がある。その結果、依存ではなく、価値をシェアし合う健全な仲間意識が生まれる。特に同じワーキンググループになった戸部さん、脇さん、伊藤(龍)さん、牛さんには強い刺激を受けた。講義で出会った同期の伊藤(靖)さん、本間さん、大塚さん、船場さんとはJBCC参加のチームを組むなど、近しい関係が続いている。

➂自分:素晴らしい道具と仲間を持っていても、最後は自分次第

 仕事をしながら夜と休日に大学に通うと新しい生活に慣れていない4月に本講義を取ったため、覚悟を持って臨んだものの、何度も妥協しそうになった。しかし、こちらの心を見透かしているように、牧さんは講義の中で、自身や色んな人の言葉を用いて激励してくれた。
「学びは“今までの学習量”と“今学ぶ学習量”の掛け算です」という言葉は、“自分の学びが他の人よりも薄いのは今までの学習量が少なかったから。だから今やろう”という気付きをくれた。
「これからのビジネスに必要なのは“つながること”と”感謝”、それを学ぶ為には挫折が必要です」という言葉によって、“やらないと挫折も経験できないじゃないか”とチャレンジすることに強い動機を貰えた。
「自分は頭が悪いという言葉で逃げず、向き合ってみましょう」という言葉で、自分を受け入れ、再度、机に向かうことができた。
他にも数えきれない印象に残る言葉があるが、どれも重く、刺さる言葉だった。結局はやるのは自分自身であると自覚できたことはこれからの人生で大きな財産になると思う。

最後に

 EBMは、自分にとって、これからの生活で大海に出ていく道具と仲間を与えてくれた講義だった。そして、その道具と仲間と共に大海に出ていくためには自分自身に大海に出る覚悟と努力が必要であることを教えてくれた。そして「皆さんにとってWBSは最後に学ぶ場所ではなく、最後に学び方を変える場所であってほしいです」という牧さんの熱い思いを体感できる講義だと思いますので、ご興味がある方は是非、ご受講ください。


次回の更新は9月16日(金)に行います。