[ STE Relay Column : Narratives 179]
高木 博史 「自分事として捉える」

高木 博史 / 早稲田大学大学院経営管理研究科(長谷川ゼミ) 2022年修了

[プロフィール]1984年北海道札幌生まれ。東北大学文学部行動科学専修を卒業後、大和証券SMBC(現 大和証券)に入社。その後はインテル、フィックスターズで経営企画/FP&Aとして、予算管理、IR、内部統制、内部監査、M&A などを幅広く担当。現在はオンラインプログラミング学習サービスを手がけるスタートアップ、株式会社Progateでコーポレート部門全体を担当。大学時代はボート漬けの日々を過ごし、全日本大学選手権男子エイト準優勝。趣味はボクシング、読書、柴犬。米国公認会計士(ライセンス未保持)。

こんなものかなぁと思ってたときに

はじめまして、2022年春クォーター「エビデンス・ベースド・マネジメント」(以下、EBM)のTAを担当させていただいた高木です。本稿では、EBMとその前身講義である「科学技術とアントレプレナーシップ」(以下、STE)を通じて私が感じたこと、学んだこと等を書き綴っていきたいと思います。

M2の1月中旬、既にTAをやることが決まっていた同期から「EBMのTAやることになったんだけど一緒にやらない?」と声をかけられ、「やりたい!」と速攻で返信をしたところから、このご縁は始まりました。当時のやり取りを見る限りその間3分。その後すぐ牧さんにお願いし、その日のうちにTAをやることが決まりました。

修論の提出も終わり一息ついていた当時、修論を無事提出できた充実感は感じていたものの、このまま何かが劇的に変わることなく修了するんだなぁ、この2年間で何を得たんだっけなぁ、とちょっともやもやしていました。もちろん一つ一つの講義やグループワークを通じて得た学びはあったものの、これこれを得るために2年間を投資したんだと胸を張って言えるものはないな、と思っていました。

STEは楽しかった

M2の春クォーターに履修したSTEは最も楽しかった講義のひとつでした。土曜日の5、6限という社会人大学院生にとって最も辛い時間にも関わらず、毎週毎週、3時間があっという間に過ぎていった記憶があります。楽しいと感じていた理由は、今思い返すと以下2つに集約されるかなと考えています。

まず第一に、非常に強い”自分事感”があったことだと思っています。元々、”科学技術”にも”アントレプレナーシップ”にも強い関心がありましたし、扱う論文のテーマも興味深いものばかりでした。特に自分がプレゼンを担当した”Organizational Endowments and the Performance of University Start-ups”は、アブストを読んで絶対これを担当しようと思い、講義そっちのけでアサインを確保しにいきました(私の年は日中のある時間にヨーイドンでどの論文を担当するか決めた)。前職時代に大学等で真摯に研究を続ける方々と仕事をする機会を得たことから、大学発スタートアップにいつの日か関わりたいなと思っていたからです。論文のタイトルの納得いく意訳ができるまで何週間も悩んだのも良き思い出ですし、プレゼンもオーディエンスへの問いかけを入れたり私の経歴を絡めたりして、私自身の”自分事”感を皆さんにも感じてもらえるように工夫しました。今思い返せば、修論の口頭試問に次いで納得のいくプレゼンができたなと思っています。

STEを楽しいなと感じていた理由の二つ目は、なんと言っても牧さんと履修者でした。牧さんからは講義を良きものにしようという殺気に近いほどの熱意をいただきました。履修者からは、プレゼンが毎週毎週進化するという(最後の方の論文を担当していた自分にとっては)とてもありがたいプレッシャーをいただきました。ところで、私が履修した年はSTEとしては最後ということもあり履修者が多く、そのため履修者のバックグラウンドも例年に比べばらつきがあったのではないかと思います。その中には、数字や英語に苦手意識を持っているにも関わらず、履修前にあれだけ脅されたのにも関わらず、果敢にチャレンジし講義の中で活躍していた人が多くいらっしゃいました。そういう人たちと一緒に学べた8週間は、自分にとって本当に楽しいものでした。

TAとしてEBMに参加して

STEを履修してから1年、TAとして後継授業であるEBMに参加させていただきました。そのなかで、改めてこの講義はMBAを取得する者/した者にとって、非常に刺激的な問いかけに溢れているなということを再認識しました。

「先週の論文の内容を実務にどう活かしましたか?」と毎回講義の頭で問われます。この問いかけ、現役時代にSTEを履修していたときは毎回毎回下を向いてました。だって、そんな余裕なかったですもの。一方で、今年のEBMの履修生は次々に手があがり、すごいなぁと一人関心していました。私自身は、TAとして言わば2度目の講義を受けてようやく実務への活かし方に意識を向けられるようになったかなと思っています。

余談ですが、現職では経営管理システムとしてOKRを導入していまして、そのObjectiveに対してそのKey Resultsだと構成概念妥当性が低いですよ、みたいな会話が行われるようになり微笑ましい限りです。さらに余談ですが、OKRはGoogleの手によって世の中に広まりましたが、その源流はインテル中興の祖 Andy Groveにあり、Andy Groveは自身PhDホルダーで、かつ、経営を科学することへの協力を惜しまない経営者でありました。OKRと科学的思考法には強い親和性があるのかもしれません。

この講義の中で牧さんからなされる問いのうち、なによりもきつい問いかけが「みなさん、わかった気になってませんか」でした。これに対して、そんなことはありません、理解しています、仕事に活かせます、と即座に答えられないなと感じていました。ともすればMBA2年間で受講した講義の大半がそうかもしれないな、とも。

ただ、自分の2年間を振り返ると、少なくとも修論は違うと断言できると思っています。自分自身が強烈に興味を持つ分野を対象として自分自身の考えを表現していくことは、わかった気ではできないはずで、(少なくとも修論の関連分野においては)わかった気ではなくて、自分の地肉にできたと思っています。

こうやって振り返ってみると、自分もこの2年でとても大きなものを学んだと思いますし、良き学びの裏には”自分事”として捉えられているかどうかがあるなと思います。

ところで余談ですが、私の修論は事例研究を中心としたごりごりの定性論文です。STE/EBMで扱うような定量研究の手法は一切使っていません。それでも、修論を書く中で一番思い出した講義はSTEになります。興味あるけど自分は定性論文書くし定量論文ばかり扱うなら履修は止めておこうかな、と思っている方はもったいないので是非履修しましょう。

感謝に代えて

牧さんはとても誠実な方だなと思います。学生に対しても講義に対しても。だから、魅力的な方々が周囲に集まるんだろうなとも思っています。

多くの学生と先生がコロナに翻弄され本来得られたであろう学びを獲得できなくとも仕方ないと思っている中で、牧さんは、同等もしくはそれ以上の学びの機会を提供しようとくださっていました。また、TA業務を通じて牧さんが学生や講義にかける熱意を垣間見ることができました。いつでもベストを尽くそうとされる牧さんに刺激を受けてばかりでした。

今までは牧さんや周りの方々に与えられてきたばかりでした。今後は自分も何かを提供していきたいなと思っています。

ラーニングコミュニティの一員としてどうぞよろしくお願いします。


次回の更新は8月19日(金)に行います。