[ STE Relay Column : Narratives 170]
下平 哲大「スタート地点2~牧ゼミでの二年間を振り返って」

下平哲大 / 早稲田大学経営管理研究科 / ライオン株式会社

[プロフィール]千葉県千葉市出身。理学修士(生化学)。大学院修了後にライオン株式会社に入社し、一般用解熱鎮痛薬の研究開発、頭痛、腰痛等の痛みの発生メカニズムの基礎研究に従事。2020年より企業派遣で全日制グローバルに入学。2022年修了後、ライオン株式会社にて新規事業開発を担当。

はじめに
 こんにちは。3月に無事にWBSを修了した下平と申します。STEコラムは、第一回でWBS入学の意気込み(と授業「科学技術とアントレプレナーシップ」でのショック体験)を記し、第二回のコラムでは、折り返し地点として一年間の振り返りを、唯一3つの牧ゼミに参加したメンバーとして共有させて頂きました。そこで、三回目となる本コラムでは牧ゼミでの2年間を振り返り、入学の前と後で、私の世界の見方、モデルがどう変わったかをご紹介できればと思っております。
 私自身、牧ゼミでの経験、学び、気づきの全てをまだまだ言語化できていないのが正直なところですが、現時点で最も大きなインパクトがあったのは、「人生で他の人にGiveできるチャンスは少ない」、「一生懸命さと謙虚さがネットワークを創る」、「今日変化がなければ、一年後も変化はない」だと感じています。

人生で他の人にGiveできるチャンスは少ない
 まず一つ目の変化は、「人生で他の人にGiveできるチャンスは少ない」ということです。WBSに入学する前、私は企業研究者として製品開発や基礎研究に従事し、研究論文や学会発表を通して自身の専門領域を確立し、この専門性で他者にいつでも貢献できるという自負がありました。しかし、ビジネススクールと牧ゼミは、専門分野、国籍、キャリアバックグラウンドが多様な人が集まる多様性の高い環境であり、今までの私の専門分野のみでは、他者に貢献できる機会は非常に少ないとショックを受けました。研究や技術という部分では、牧ゼミにはMSc、Ph.D保有者がOBOG含めて多く在籍しており、ビジネス面では事業開発や営業の最前線で活躍、実績を持った方々が多くいます。さらに授業やゼミで、各分野の最前線で活躍されているゲストとお話しをする中で、各分野には上には上がいるということを、身をもって経験しました。正直、二年間はこのコミュニティにおける自分の価値はなにか、Giveできる部分はどこかをいつも必死に考えていました。まだまだ自分が絶対的に貢献できるモノは見つかっていないですが、この経験から言えることは、「Giveできるチャンスは少ない」と思って世界を見て、小さなことでもGiveする姿勢をしていると、自分が得意でないことをやる新しい機会を頂けたり、他の人がそれを見ていて次の機会に声がかかったりと、人生に変化生まれることだと今は思っています。
 修了後は新規事業開発を担当しますが、イノベーションを生み出す組織には多様性が必須で、その多様性のある環境ではGiveできる機会はきっと少ないと思います。牧ゼミ前の自分ならば、そのことにとても戸惑ったと思いますが、新しい世界の見方を持った今なら、Giveできる機会を探すのが難しい場所こそ自分のRight Placeだし、Giveできる機会を探すことを楽しめるはずだと確信しています。

一生懸命さと謙虚さがネットワークを創る
 ビジネススクールに入ると色々なところで「ネットワーク」というワードを聞くようになりました。イノベーションに関連するネットワーク理論でも弱い紐帯の重要性が提唱されていて、日本語で言う人脈を広がることが重視される面があります。ネットワークという観点からイノベーションを考えるというのは、生化学研究しかしてこなかった私には新鮮でした。しかし、人脈を広げることの重要性を頭で理解していても、何かそれを目的化することに入学当初気持ち悪さを感じていました。このモヤモヤ感はゼミ活動を通して整理でき、今では人脈作りを目的化することの虚しさと、一生懸命さと謙虚さが意味あるネットワークを創る唯一の方法であるという確信を得ました。そのきっかけは、全日ゼミにゲストとして来ていただいたシリコンバレーの最前線で活躍されているゲストのお話、そして夜間主の牧ゼミでこれまでの自分のネットワークをリストアップし、本当に相談できる強い紐帯を棚卸したことです。
 シリコンバレーの最前線で活躍されているゲストの方から、「ネットワークは結果であって目的ではない。正しい場所で、自分が熱意をもって、チームや他者に常に貢献しようと一生懸命になっていればその結果として必ず人財がついてくる」ということを伺い、因果関係を間違えないようにすることの重要性に気づかされました。また、夜間主ゼミで取り組んだネットワークのワークでは、弱い紐帯ではなく、強い紐帯を棚卸しました。棚卸をしてみると、強い紐帯はいずれも自分が人脈を作ろうとして作ったものではなく、自分が何かにチャレンジしたり、一生懸命に取り組んだりした結果として構築できたものだと気づかされました。ここでもネットワークを目的化することの間違いに気づかされました。
 牧ゼミの二年間も、ネットワークを目的化するのではなく、まずはGiveできることを探して一生懸命、謙虚に目の前のことに集中してやってみるということを意識してみました。その結果、ゼミメンバーとはラーニングコミュニティとして強い紐帯ができ、仕事からプライベートまで本当に色々正直に話せる関係になったと思っています。今後も、この因果関係に確信を持って、「謙虚に一生懸命やることからすべてがはじまる」ということを肝に銘じて、新しいチャレンジを続けたいと思います。

今日変化がなければ、一年後の変化はない
 「皆さん、昨日したことで他の人にシェアできる新しいことは何かありますでしょうか?」この問いかけは、ある授業で先生から聞かれた質問です。今日変化がなければ一週間後も変化はなく、一週間後に変化がなければ一か月後、一年後、そして十年後も変化はない。変化こそが自分の人生を作る基本的な単位だと思います。
 この問いかけに対して、在学中の変化の要因は主に牧ゼミにありました。牧ゼミでは、毎週新たなコンテンツやゲスト、プロジェクトに取り組み、変化が当たり前のコミュニティでした。正直、色々なプロジェクトが走りすぎてかなりパンク気味の時もありましたが(笑)、今となっては、どれも本当に貴重な変化のチャンスだったと実感しています。修了後は、この牧さんを中心とした変化の渦から出て、自分で変化の渦を作り出していかないといけないと決意を新たにしました。

さいごに
 MBAは経営の知識や最先端の理論を学ぶところ、と思って入学しましたが、この二年間で一番変わったのは世界の見方で、それもとても基本的な見方なのだと、二年間を振り返り実感しました。ここで得た新たな世界の見方を持って次のスタートラインに立とうと思います。
 二年間のご指導と、コラム執筆を含めいつも貴重な変化の機会を下さった牧さん、そしてゼミメンバー、二年間お世話になった皆さまに改めて感謝申し上げます。乱文を最後までお読み頂きました皆様、誠にありがとうございました。このコラムが少しでも誰かの役に立てば幸いです。


次回の更新は4月22日(金)に行います。

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