[ STE Relay Column : Narratives 164]
西田 美和子 「2021TOM, Great Learning Community -TAの視点」

西田 美和子 / 早稲田大学大学院経営管理研究科

[プロフィール]横浜生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業、鉄鋼メーカー入社。本社、製鉄所、技術開発本部、海外現地法人(シンガポール駐在)で、コーポレート部門(IR広報、企画・財務、総務、人事労政)の業務に従事。2021年4月、早稲田大学大学院経営管理研究科(全日制グローバル)入学。趣味は、島旅、世界自然遺産巡りやトレッキング。温泉好き。気象や地球科学系に興味あり。中国語勉強中。

長いようで短い、短いようで長い8週間のTOMジャーニー。比較はできないけれど(いわゆるコントロール群がない)、敢えて。間違いなく今年のTOMは最高と自信を持って言えます。牧先生のおっしゃる通りの最もぶっ飛んだ授業だったと思います。

Diversity – TAトリオ結成
振り返ると、昨夏クォーターの最中にTOM(技術・オペレーションのマネジメント)のTAを担当することになりました。夜間プログラムの選択必修科目を履修出来ない私は、聴講するつもりが一転、TAとして参加することになったのです。春のSTEを受講して牧先生の授業の大変さを分かっていたはずなのですが、未知への好奇心と新しいことに挑戦しない自分に後悔したくない一心で、再び無謀にもYesと言ってしまった。でもM1の秋は必修科目も多くちょっと重たい、そしてTAは責任重大、ということで、秋の履修科目を一つ減らし、TA・学生両面から全力投球することにしました。
そんな私がなんとか最後までやりきれたのはTA仲間に恵まれたおかげです。今年はちょっとユニークで、Diversityに富んだTAトリオを結成。国籍、言語、ジェンダー、年齢、所属、全て違う3人。国籍3つ。言語は日英中韓タイ語の5つ(私だけ2つしか話せない)。チャーミングでムードメーカーのRolaは伝説の2019 TOM履修生でワーママ。優しくて頼りになるMerckは留学生で牧ゼミ仲間、グローバルプログラムのTOM履修生(留学生の夜間授業TAは初めてかもしれない)。こうしてみると自分の平凡さを痛感するのですが、それも個性、自分が貢献出来ることということで、諸々取りまとめの黒子を担当しました。私達のミッション、牧先生の授業運営をサポートし、受講生と伴走しながら最高のLearning Communityを作る一助となること、を胸に、日々励まし合いながら駆け抜けた2ヶ月でした。

一学生としても自身の学びはここに書ききれないくらいあるのですが、授業の魅力は多くの受講生が様々な感受性と考察で言語化してくださっているので、ここではTAの視点から、”ぶっ飛んだ”最高のLearning Communityが「イノベーション」を起こした舞台裏をすこしお伝えできればと思います。

「コロナ前の授業で良かったものがなくなることを阻止したいと思う人へ」
昨夏はコロナ感染拡大が収まりきらず、休み明けの授業形式も不透明でした。そんな中、とりあえずハイフレックス授業の想定で、馬蹄型教室の仕様を試したり、牧先生が使いそうなオンラインツールを勉強したりして秋に備えていました。蓋を開けてみると、ほぼ過去最高の受講者数。教室を広いコネクションルームに変更し(想定が狂う)、対面に強くこだわって全力で「コロナ前の授業で良かったものがなくなることを阻止」することになりました。「阻止する」とは決して受動態を意味していません。コロナ禍でも、コロナ前の授業で良かったことをとことん追求する姿勢、それも単に以前の対面形式に戻すことではない、対面授業の価値の見直しであり、能動的な更なる限界への挑戦のことを言っています。牧先生の強い意思を感じ、気持ちが引き締まり腹が据わったような気がしました。この挑戦は多岐に亘り、相当な知恵出しや覚悟、配慮が要りましたが、終始一貫やり抜けたのではないかと思います。

学びの環境づくり
例えば、教室。ただの座学の集合場所に終わらせません。対面で集う学びの空間を最大限dynamicに活用します。毎回机と椅子の配置は変わり、座ったり立ったり(時に床に車座になり)居場所もスタイルも変わる。教室の前後さえ入れ替わり、牧先生に定位置はない(これ全て毎回メンバー全員で協力しての手作り。自ら学びの空間を創る・壊す・創るの繰り返しです)。時にBGMが流れ、あちこちでおやつをシェアしながら対話が生まれ、自作の名札で挙手合戦が起こり、ドローンが飛び、仮装パーティ会場さながらになり、最後は輪になってダンスを踊るホールと化す(あくまでEmbodied Leadershipの実体験です)。そしてここは開かれた空間で、豪華ゲストをお迎えして新しい出会いと学びの場にもなります。シリコンバレーの風を届けMBA生を大いに刺激して下さったGCPJ大澤さん(ディスカションでは教室の半分が挙手するという圧巻な光景が)、デジタル庁と内外DXのリアルを聞かせて下さったデジタル庁統括官の楠さん(この日仮装で初対面のご挨拶。デジ庁発足年にお迎えできたことは意義深い)、スターサイエンティストでスタートアップ経営者でもある慶應義塾大学医学部の岡野先生(4日後、TVの画面越しに先生と再会することになりました(iPS由来の神経の元になる細胞で脊髄損傷が回復するという将来の大きな希望となるすごい発見のニュース))、お三方をお迎えした時間はとても貴重なものになりました。
こうして、普段の教室が無限の可能性を生む空間になりました。教室という空間のデザインでTOMコミュニティの空気を作り心理を醸成していたのです。思考が刺激され、創意工夫が生まれ、臨場感ある交流が生まれ、同じ時間と空間を共にする中でLearning CommunityにおけるInclusionとBelongingの意識が生まれました。

Community Norm
この空間に欠かせないのが、教室に集うメンバー皆で共有したNorm(規範)でした。このNormはメンバー個人同士やCommunityに互恵性を生み出すものと言いますが、まさにTOMの学びの空間に魂を込めるもので、学びの環境づくりとセットで、ラポールを築きコミュニティを活性化させるものであったと思います。Commitment、Contribution、Engagementの意識が格段に高まったことは間違いないし、牧先生が再三おっしゃる、コロナ禍で失いかけているかもしれない相互respect やempathyを醸成する力が引き出されていました。Equity, Diversity, Inclusion and Belonging(EDIB)はもちろん、ワクワクする環境を皆で作ること、毎回一期一会の想いで新しいチャレンジを重ねること(「今日は昨日までやれなかったことだけをやってみたい人へ」の実践)、失敗を恐れずイノベーションの可能性を探索すること、一連のプロセスの評価を大事にすること、全てが私達のNormです。受講生一人一人の”知”やengagementは凄まじいパワーとポテンシャルをもっていたので、Normがそれを引き出し、所謂”知”と”知”の結合が生まれ、”ぶっ飛んだ” Learning Communityと「イノベーション」の創生に繋がったのではないかと感じています。

唯一のオンラインセッションから得たもの
一見「対面のこだわり」に相反するようなオンライン授業やオンデマンド視聴も導入しました。ハイフレックス授業を廃止し、対面・オンラインを使い分け、其々の良い点を取り入れて最大化したところがミソです。これはコロナ前には出来なかった今だからこそ得られる付加価値。レクチャのオンデマンド化は教室での対面授業の効果の最大化に寄与するし、自習機会をフレキシブルに提供してくれます。授業録画は教室参加できなかったメンバーへのEquityとInclusiveの配慮でもあります。そして何より唯一のオンラインセッションでは、対面では出来ない空間を超えたCommunity創りに挑戦しました。20名もの過去のTOMメンバーにサプライズ参加していただき、TOM-Allの集いが実現しました(実に約1ヶ月前からの内緒の仕込み。Rolaの過去履修生ネットワークに感謝)。授業で修了生が執筆したケースが取り上げられることはありましたが、この集いでは逆に、現役生が2021TOMのTakeawayを即席プレゼンで披露。現役・修了生が一堂に会し双方向に学びと体験を共有する時間を持てたのです。授業スタイルやコンテンツは違っても牧先生のTOMから伝わるメッセージは同じという声を聞き、縦の繋がりや結束を強く感じることができました。TOM 5年目の今年、縦横に繋がるプラットフォームみたいなものが出来たような感じで、Life-longに発展的なCommunityに拡大していきたいと思いました。

「学び」の哲学
牧先生の授業には独自の「学び」の哲学があります。全員のCommitmentによる質の高いLearning Communityの醸成、仲間と共に学ぶ姿勢と責任感(Peer Effect)。EDIBの尊重、全員の相互貢献によるcommonsの構築と運営、Experimentalな授業とLearning Scienceの実践、先端テクノロジーの活用、そして実験と失敗とそのプロセスからイノベーションを学ぶ。この「学び」の哲学を振り返ってみても、やはり本当に終始一貫していて、そこが修了生とも共感できたところなのだろうと思います。この授業、「イノベーションのマネジメントです」という言葉から始まったのですが、全15回の授業を通じて、そもそもイノベーションとは何か。何のために必要なのか。イノベーションを起こすと誰が幸せになるのか、社会がどう変わるのか、自分は何が出来るのか・・こういった問いをethicsの観点も含め深く考えを巡らせる時間があり、頭で考えるだけでなく、授業そのものが「イノベーション」であり、「学び」の哲学に基づいた「イノベーションのマネジメント」を体現し体験する場になったことが、最大の成果のひとつだったのかなと思います。

プロセス@舞台裏
こうして振り返れば振り返るほど濃密な2ヶ月。舞台裏のプロセス・やること自体、表面的には普通といえば普通です。平日は課題を読み、受講生の事前課題と事後のTakeawayに目を通し、連絡流したり、資料作ったり・・牧先生と相談しながら、次の授業に備える(頭の中とMoodleとSlackは24h営業みたいな日々です)。対面なので、下見やテスト、問合せや相談などで、大学構内を随分歩き回ったりもしました(大学の授業サポート部門の方には大変お世話になりました)。土曜は終日TOMの日。まずは空間作りの力仕事から。そして授業直前まで尽きない牧先生のアイデアと情熱(時折内心えーっというところまで)にぎりぎりまで対応します。授業が始まればシナリオ通りであるはずなく変幻自在で3時間気が抜けません。ほぼ新しいことしかやらないので、当然思った通りにいかないことも多々あり。そこは終わるやいなやすぐレビューして次必ずやり方を変えて試してみます。この繰り返し。どんどんバーが上がり、受講生の熱量もぐんぐん上がっていくので、ワクワクするが、なかなか大変。そんな時でも、相談し支え合えるTA仲間の存在が心強かったし、牧先生の信念や哲学を近くで見聞きし、学びながら、最高のLeaning Communityを創りあげていくのだ、という想いとプロセスを共有できたことが何よりの経験となり糧となりました。

いつもながら、とてつもない熱量で2ヶ月皆を導いてくださった牧先生、負けない熱量で応えた受講生の皆さん、貴重なお時間を割いてPricelessな講義をして下さったゲストの皆様、過去の履修生&TAの皆様、最終回に心からのメッセージとウガンダ・ダンスを披露してくれた牧ゼミ仲間のImmy。そしてRolaとMerck。どれだけ多くの方の協力と支えで成り立っていたことか。どれだけ多くの方の想いが詰まった時間だったことか。。感謝しかないです。すべての方々に心から御礼申し上げます。

このTOM、限界への挑戦が続いていきます。限界ラインは自ずとさらに先に進むので、ゴールはない。TOMは常に進化・深化していく「未完成」なものであり続けるのだと思います。今は気が早いけど2022TOMを見てみたいし、2021TOMメンバーとして、襷を繋いだ1人になれていたら嬉しいとの想いでいます。ありがとうございました。


次回の更新は3月11日(金)に行います。