[ STE Relay Column : Narratives 156]
櫨山 ゆう子「TOM2021 ~『イノベーションとは?』の問いの先で得たものと手放したもの~」

櫨山 ゆう子 / 早稲田大学経営管理研究科

[プロフィール] 東京都出身。慶應義塾大学経済学部卒業後、日系投資銀行でコーポレートファイナンス業務、外資系証券会社で株式アナリスト業務に従事。その後、新規事業開発やイノベーションに興味を持ちITベンチャーのユーザベースに入社し、事業開発から上場準備まで幅広い業務を担当。現在はセブン銀行にて新サービスの開発・立ち上げ、営業を担当した後、広報・IR業務に従事している。2021年4月よりWBS(夜間主総合)に入学。趣味は旅行(海外・国内問わず)、ライブに行くこと、美味しいものを食べること。甘いものと猫には目がない。

【授業を受けたきっかけ】
“本授業は、「技術・オペレーションのマネジメント」という授業名がついているが、事実上は「イノベーションのマネジメント」に関する授業である。”
これは牧先生の「技術・オペレーションのマネジメント(以下、TOM)」の授業シラバスに書かれている言葉である。

「WBSの名物授業だから絶対に取っておくべきだ」とか「凄く負荷が重いから止めておいたほうがいい」とか、様々な前評判を聞いて頭が混乱している中で、更に追い打ちをかけるようなシラバスの文言。「技術・オペレーションのマネジメント」は選択必修なのに、勝手に「イノベーションのマネジメント」の授業にしちゃっていいの!?みたいなしょーもないことが頭の中によぎる中で、今一度自分に問いかけた。「この授業受けなくて、本当に後悔しない?」

私は大学卒業後、投資銀行⇒株式アナリストとファイナンス系のキャリアを歩んできたにも関わらず、事業開発やイノベーションの奥深さに魅せられてキャリアチェンジをした。サービス開発や新規事業の立ち上げ、他社とのアライアンスをいくつか経験したものの、イノベーションとは何なのかが分からずモヤモヤした思いを抱えていた。そんな中で出会った牧先生のTOM。「イノベーションとは何なのか?」その答えが見つかるかもしれないのに、受けなかったらきっと後悔する。そう思って、受講を決意した。

【授業を受けてみて】
受講前はイノベーションを取扱う授業ということで、最新のケースを用いて論理的に無駄なく授業を進めるというイメージを持っていた。だが実際は、新しいトピックを扱いながらも「コロナ禍で失われたものを取り戻す」をテーマに徹底的に対面にこだわり、一見無駄に見えるものも貪欲に取り込んだ、リアルの場でのPeer Effectを大切にした授業だった。

机の配置が毎回違う、おやつを食べてもOK、Slackのチャンネルを好きに立ち上げて知識をシェア、Spotifyのプレイリストを皆で作る…こんな授業は他にはない上に、授業自体へのコミットメントも求められる。(というかコミットしないと楽しくない)
毎週降りかかってくる課題と授業の変化についていくのに精いっぱいで、「イノベーションとは居心地の悪いもの」をまさに体現したような日々。TOMを受けている2か月間、授業がない日も頭の片隅にTOMがちらついて、TOMのことを考えない日はなかったのではないかと思う。私以外にも、そういう人は多かったのではないだろうか。

ふと、大好きだったロックバンドを追いかけていた頃のことを思い出した。彼らがライブをやると言えば日本全国どこでも駆け付け、常に彼らの作る音楽を聴いていた。ライブがない時も、勉強や仕事をしている時でさえも、彼らのことが頭から離れなかった。それくらい熱狂していた。TOMを受けている時の私は、その時の私に近かったのかもしれないと気づいた。TOMの授業に知らぬ間に熱狂させられていたのだ。

【得たもの、そして手放したもの】
熱狂したTOMでの2か月間を経て、得たものと手放したものがある。

手放したものは自分のちっぽけなプライドである。TOMの受講者には様々なバックグラウンドを持った人が集まっており、各人がかなりの強みを持っている。そんな素晴らしい仲間たちと共に学んでいると実力不足を感じることも多く、自信を失いそうになる時もあった。
でもそんな時に、自分のしたことが感謝されたり、Moodle上でのやり取りに反応があったりすると「こんな自分にも出来ることはあるのだ」と思えるようになった。自らに驕ることなく、自分が出来ることは何かを常に考え、失敗を恐れずチャレンジしていくことの大切さを学べたこと、そしてそれこそがイノベーションの源泉であると気づけたことはとても大きな収穫だったと思う。

そして得られたものは沢山あるが、一番大きなものはやはり仲間・つながりである。
TOMを通じて、これまで他の授業で被っていても何となくしか知らなかった人たちと沢山仲良くなることが出来た。これは単に授業を一緒に受けたからではなく、共に授業を作り上げ、共に学ぶという体験をしたからこそ得られたものであると思う。また、物理的に同じ空間で同じものを食べたり飲んだりしながら話すことで共通の空気感を得られたことも大きく作用したと感じている。少し大げさかもしれないが、教室の中で同じチョコレートをつまみながらイノベーションについて語り合うことで伝わる、対面でしか味わえないぬくもりがTOMの教室には確かに存在していたと思う。

【授業を終えて】
「イノベーションとは何か」その答えが知りたくて受けたTOMであったが、熱狂した2か月を経てもそれに対する明確な答えは見つけられなかったと感じている。それは決してTOMの授業が分かりづらかったからでも、自分や周囲の能力が低かったからでもない。
イノベーションとは居心地が悪く、決まった形を成さない、永遠に答えの出ないものであり、一生考え続けなければいけないものだと理解したからである。答えのないものだからこそ、これからも多くの仲間とつながり、語りあい、授業(事業かもしれない)を作り上げることを通じて、イノベーションについて一生考えなければいけないのだろう。

答えを教えてもらえる授業はたくさんあるし、受講することは簡単だが、一生考え続けなければならないという気づきを与えてくれてくれる授業は稀だと思う。学生にどこまでも真摯に向き合い授業をしてくださった牧先生、多大なサポートをしてくださったTAのわこさん、Rola、Merck、そして一緒に授業を作り上げてくれた受講生の皆(特に初期からおやつタイムを一緒に盛り上げてくれた吉村さん、鈴木真帆さん。一緒にTシャツ作成してくれた河瀬さん、白川さん、早川さん)に心から感謝したい。TOM2021を受講出来て本当に良かった。関わってくれたすべての皆さま、本当にありがとうございました!

以上


次回の更新は1月7日(金)に行います。