[ STE Relay Column : Narratives 150 ]
平野 梨伊「中間地点を変曲点にするために」

平野梨伊 / 早稲田大学大学院経営管理研究科 / 三菱電機株式会社(文部科学省出向中)

[プロフィール]東京都出身。慶應義塾大学大学院理工学研究科の博士課程を修了。その後、三菱電機株式会社に入社し、液晶ディスプレイや携帯電話基地局向け半導体トランジスタの研究開発に従事。2019年からは文部科学省に出向中。2020年より早稲田大学大学院経営管理研究科(夜間主総合)に入学し、「大学発ベンチャーが成功するための研究開発の条件」をテーマに調査を行っている。

はじめに

 今、私は「中間地点」にいます。何の中間地点かというと早稲田大学ビジネススクール(WBS)の中間地点です。しかし、WBSを卒業することはゴールではありません。WBS卒業後のキャリアを考えた広い視野で考えた時の中間地点でもあるのだと思います。私は大学で半導体の研究を行い、企業に就職した後はそのバックグラウンドを活かして液晶ディスプレイや携帯電話基地局向け半導体トランジスタの研究開発を行ってきました。企業で研究開発を行う中で、どのような研究開発が社会の役に立つのかということを考えるようになりました。この問いについてもっと深く考えてみたいという思いからWBSに入学し、2021年からは牧ゼミで活動をしています。牧ゼミのメンバーにはこれまでたくさんの実績がある中で、これまでの延長線ではないさらなる飛躍を求めるような志の高い仲間がたくさんいます。私もこの中間地点をさらなる飛躍の変曲点にしたいと考えています。そこで、まずは春学期の授業であるLab to Marketやこれまでのゼミの活動を振り返ってみたいと思います。

 
Lab to Market

 Lab to Marketは「新しい技術をいかに実用化するか」を実践的に学ぶことができた授業です。企業で研究開発をしつつもその実用化には至らなかった経験がある私にとってまさしく求めていた授業でした。この授業では技術を実用化する上での課題をケースを通して学ぶだけでなく、自分達も実際に大学の技術を使ったビジネスアイディアを構築します。私は2つのチームに所属してビジネスアイディアを構築しました。一つは空気をチューブに注入し、その押し出す力を利用しながら進むことが出来るロボット、もう一つは脳波計測ができる電極の技術です。どちらも実際に研究者の方々に技術の特性についてお話しを伺い、その技術を用いたビジネスのアイディアを考えました。ここで、私が最も学んだことはこれらのビジネスアイディアを検証することの重要性です。我々も考えたビジネスアイディアを実際に専門家にヒアリングしたり、アンケート調査を行うことによってアイディアの妥当性を検証しました。これらの検証を実施することによって、自分達のアイディアの思いもよらない課題が見つかったり、定量的なエビデンスを得ることが出来ました。他の授業を通してビジネスについて学んだ私たちも頭の中に描いたアイディアと実際の市場とのギャップを実感し、知識を使って考えることだけでなくそれを早く検証して必要であればピボット(方向転換)したりプロジェクトを中止することが重要であることを学ぶことが出来ました。

 
これまでのゼミ活動

 牧ゼミのメンバーは我らがゼミ長でリモート会議機器販売企業に勤めるつじちゃん、弁理士のもっさん、人事のたいちゃん、労働組合のしんちゃん、ベンチャーに勤めるしだちゃん、研究職のしもちゃんという幅広いメンバーで活動しています。「牧ゼミって難しい定量分析をたくさんやってそう」と言われることが多いですが、定量分析の勉強は意外に多くありません。それよりも今どんなことを学ばなければならないかというもっと広い視野に立って活動がスタートしました。特に活動当初は自分達の履歴書と、自分達が将来死んだときに想定されるお悔み記事を自分達で書きました。お悔み記事には自分達が死ぬときにはこんなことを成し遂げていたいということを書くので、履歴書によるこれまでのキャリアとこれから目指すべき自分達の姿のギャップについて考えることから始まりました。このギャップを考えることにより、自分が今何を勉強し、どんな能力を養わなければならないのかが明確になったと思います。ここで、上記に挙げた通りゼミには様々なバックグランドを持つメンバーが集まっているためその目指すべき方向もバラバラです。しかし、どのメンバーに対してもこれまでの延長ではないことに挑戦する想いに共感することができ、同じ場で学ぶことが出来たことを光栄に思うと共にこれから他のメンバーがどのように活躍していくのかを楽しみにしています。その後はネットワークに関する論文やケースを読み、キャリアの中でネットワークを構築していくことがどのように重要かを学びました。今までネットワークの重要性について意識していなかった自分にとっては、これまでのネットワークとWBSに来なければ出会えなかったであろう仲間たちに改めて感謝する機会になりました。

 
最後に

 冒頭で触れたようにWBSでの学びは自分のキャリアにとって一つの中間地点なのだと思います。この中間地点をこれまでの延長線ではないさらなる飛躍のための変曲点とするために授業やゼミ活動を通して学んできました。しかし、WBSでの勉強を振り返るとこれらの学びは周りのメンバーによって大きな影響を受けていると感じています。周りのメンバーが頑張っている姿を見ると、ついつい妥協してしまう自分も「もっと頑張らねば」という思いにさせてもらえます。WBSではこの相乗効果による不思議な力が働くことによってキャリアの中間地点を変曲点に変えることができるのかもしれません。WBSも残すところあと1学期、この力を借りて修論も終えられるハズ、、、


次回の更新は10月22日(金)に行います。