杜雅楠(と やなん)Yanan DU / 早稲田大学経営管理研究科
総括
WBSに入った最初の学期にSTEに出会えたのは今から振り返ってもラッキーなことだと思います。根来先生がおっしゃる通り、STEのような授業はビジネススクールの王道にしてはいけないこともとても理解できますが、2年間のWBS生活をよりよく設計するためにはSTEが欠けてはいけない授業であるような気もします。STEを通じて、理論的なインプットと学習のパターン認識によって、「科学的な思考法」、「論文の読み方」、「科学技術とアントレプレナーシップの研究分野の最先端の知」を学ぶことができます。そして、理論と現実の差身をもって体験できるのがL2Mです。実践を通じて、内生性に溢れる世の中の本質を見抜く力として科学的思考法が必要だと感じる一方、独自のビジネスモデルを作り出すためのアントレプレナーシップとビジネスセンスは科学的思考法とはかけ離れたものであることも身を持って体験できると思います。STEとL2Mがビジネススクールでの存在価値としては、自分にふさわしいビジネススタイルを見極め、人生の行き様に大きな気づきを与えてくれる体系的なコースだと思います。
科学的思考法=嫌われる力?
私は、科学的思考法を教える先生は普段から客観的であるべきだと考えています。しかし、科学的思考法を徹底している牧さんは人間としてとても嫌われやすいと思います。「この授業の負荷を考えるとビジネススクール生活に慣れてないM1はドロップした方が良いかも」、「ドロップするなら早い方が良い」など、客観的なアドバイスかもしれませんが、WBSに入ったばかりの期待とわくわく感が溢れる最初の学期の最初の授業で言われると、とてもテンションが下がります。そして、関連授業の構成紹介や、受講者への手紙、推薦状の書く基準が次々に出され、授業と先生からの学びを具現化できるとともに、このコミュニティに対する貢献へのコミットメントが精神的な負荷になって、とてもバイアスをかけられた状態で履修を始めました。あとでわかったのは、この「バイアス」をこのコミュニティでは「Peer effect」と呼び変えることができます。その勢いで習得した内容を早速実践してみました。社内の期初懇談会で吉祥寺のおいしいアップルパイのお店を紹介してくれた同僚に対し、そこしか食べていないのに、おいしいと言いきる科学的根拠が欠けていると指摘し、見事に嫌われました。しかし、このエピソードを授業中に共有したら、アップルパイが比較対象、トリートメント群の代名詞になり、このコミュニティでしか通じないMagic wordになりました。科学的思考法は変わりませんが、見方と見られ方によって解釈が違います(トリートメント群によって結果が異なります)。一方で、考えも思いも違う人が科学的思考法という共通言語を通じて素晴らしいLearning communityを築き上げました。
M1がとらないほうが良いような授業をやりきって牧さんに返したい言葉は、STEがWBSをより有益に過ごすためのリズム作り、卒業のために課される修論を早期にイメージすることに適したM1だからこそ取った方が良い授業です。また、この授業をとったことのない皆さんに体験して欲しいことは、効率やロジック、そして成果やパフォーマンスで判断されるのではなく、努力と意欲の度合いに真摯に付き合ってくれる牧さんが科学的思考法を教えているのに、実は一番人間味が強いということです。
科学的思考法VSビジネスセンス
L2MはSTEの実践編です。指定されたシーズの商業化プランの提案を作ることが授業のメインストーリーであり、その実践をうまくするために、オンデマンド講座、ケースディスカッションとシミュレーションを行うことでプロセスの勉強をします。印象的にだったのは「Food Truck」というビジネスのシミュレーションです。STEを取った私ならシミュレーションでは絶対勝つと思っていました。授業前と授業中に2回行いましたが、どれも悪くない稼ぎでしたが、一位にはなれませんでした。科学的思考法は大成功を導いてくれる道具ではなく、パターン化できる失敗を避ける道具です。科学的思考法が分かっていても、実践の時には個人の気持ちと好みで選択と意思決定を変えてしまうことがあります。大きな成功を収めるには鋭いビジネス感覚と総合力が必要です。メインの課題である商業化提案を通じてわかったのは短時間でも努力さえすれば形にはできることと、自分の熱意とメンバーとの関心の一致不一致などビジネスに影響する様々な因子があり、理論だけでは回すことができず、センスと行動力も不可欠です。
L2Mの気づきから自分に問い詰めてみました。自分の無力を会社の方針、組織のしがらみのせいにしていませんか。べき論を語りすぎて現実逃避していませんか。理想を高く持ちすぎて目の前のできることを始められてないのではないでしょうか。L2Mを通じて、バイアスと内生成の排除ができない現実世界に、制約条件がある中でパフォーマンスを最大化することをリスクフリーで実践することができます。そこで自分自身は科学的思考法によって思考力の低い判断をしないようにする人なのか、大胆なアイデアとセンスで世の中を変える人なのかを見極めることもできます。
変わるものと変わらないもの
授業で使う設備やツールは変わりますが、変わらないのは最先端の技術と最先端の知にアクセスできることです。最先端の知も技術もどんどん変わりますが、変わらないのは科学的な考え方です。受講生のTake awayやFeedbackによって授業のやり方は変わりますが、変わらないのは牧さんの努力と授業への熱情です。毎年の履修者は変わりますが、変わらないのは授業を通じてできたLearning communityです。この常に変化している世界から一歩引いて、客観的に観察する力と、自分の生き方や考え方として何か1つ変わらないものを持つことがビジネスパーソンだけでなく、独立した一個人にとってもなくてはならないものだと思います。そこの実務の課題や問題を抱えている、キャリア、人生について迷っている、これからの人生の行き様や抱負を求めてWBSに入ったあなた、まずSTEから始めたらどうでしょうか。
次回の更新は9月24日(金)に行います。