西田 美和子 / 早稲田大学経営管理研究科
はじめに
入学まもなく、春クオーター「科学技術とアントレプレナーシップ(STE)」の受講生として、また牧ゼミサブメンバーとして、WBS生活をスタートしました。これは私にとって、”牧ワールド”の”洗礼”(生き方や考え方に大きな変化をもたらすような経験をすること)の始まりとなりました。M1春学期は必修科目も多数あり、慣れない中でなかなか負荷の高いシーズンです。この4ヶ月間に様々な授業を通じて、挙げ尽くせないほどの気づきや学び、出逢いがありましたが、なにより、ゼミでも授業でもラーニングコミュニティを全力でエネルギッシュに牽引する牧さんの熱量の高さ(そしてたびたびグサッとささる”ご指導”)には圧倒され、自分の知力と体力を総動員して睡眠を削りながらの学生生活は、青天の霹靂(突然起こる大事件)の連続のような日々で(進行形)、高速スピードで駆け抜けているところなので、ここで少し振り返ってみたいと思います。
“Narratives”で思い起こされた自分への問いかけ
今回コラムを書く機会をいただいて思い浮かんだのが、ボストンを訪れた時に出会ったゴーギャンの絵画“我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか”(” D’où venons-nous Que sommes-nous Où allons-nous”,1897)。自身の存在意義を問われる根源的な問いで、いまだ解はなく、これからも解はないかもしれないけれど、このSTE Relay Column: Narrativesに通ずる問いです。WBS入学というひとつの節目に、この問いかけが追想され(夏クォーター必修「人材・組織(堀江先生)」の授業でも繋がり)、卒業する頃には自分なりのNarrativeを語れるようになっていたいというメルクマールができました。
ということで、このRelay Columnでは、なぜWBSに入学し、今どんなことを経験し感じ、どこに向かおうとしているのかといった観点から記しつつ、”牧ワールド”の魅力とそこでどんな”洗礼”が待っているのか、一端をお伝えできればと思います。
なぜ今WBS・・
昨年来の世界的コロナ禍もあり、今おそらく人生で何度も経験しないような不確実と変革の渦中にいます。そんななか自分と向き合う時間も増え、新たな挑戦に踏み出すべく、以前から温めていたWBS志望を決めました。当初の動機は、理論と実践との融合を図り、仕事に活かしたいという一般的なもの。一方、挑戦が単なる学び直しや過去の実務経験の整理に終わっては意味がない、自分自身も変わりたいし、勤務先の中長期課題解決に資するイノベーションの創出と具現化に関わりたい、という思いも強くなり、最終的には”深化”と”探索”の両方の可能性を探るという“両利き的な”志望動機に落ち着くことに。入試で通りそうな動機に曲げるのは本意でなく、そのまま正直に伝えてみたところ、意外にも面接官の先生方から、それはアリだと背中を押していただき(と受け止めました)、その一人は偶然にもご指導いただきたいと思っていた牧さんでした(このご時世には貴重な・・マスク&アクリル板越しのリアル初対面!)。
振り返ると、私は一貫女子校から共学、重厚長大メーカーへと進みました。自分の価値観と判断で決めてきた道ですが、なぜか身を置く場所を同質から異質な世界へ変えながら今に至っています。進む道では”マイノリティ”・”ファーストペンギン“だったことも多くありました。女性ひとりというシチュエーションは数知れず(それが日常)、研究者やエンジニアの中でひとり文系(”事務屋”)だったり、海外駐在も社内では女性初で異文化の東南アジアでひとり奮闘したことも。学生時代も会社でもチームや組織の”ゼロから立上げ”に関わる機会もありました。多くの方の支えやご指導を戴きながら、なんとかここまできて、こうした経験が今の自分を作っていると思うし、今後の原動力にもなるのではないかと。意図せざるようで、実はこういうチャレンジがやめられない性格なのかも。今回も少々無謀な選択をしたかもしれませんが、新しいコミュニティで、自らどこまで変容できるか挑戦し、具体的な形にしたいと思っています。
WBS生活のはじまり
こうして飛び込んだWBSは期待を上回る素晴らしいコミュニティです。バックグラウンドや関心、得手不得手が異なる多様性に富んだメンバー間にも、感性や価値観の共感が生まれることを体感したし、むしろ同質でないことが共鳴を増す力を秘めているのではないかとさえ思う。様々なPeer Effectが生まれ、染み渡るように波及し(スピルオーバー)、個々人のポテンシャルを刺激して引き出す力となっている。文系で転職経験もない私が科学的思考やイノベーションの世界に興味をもち勉強を始めたわけですが、自分の実力のほどを思い知る一方、今さらながら、昨日まで知らなかったことを知る(自分がいかに知らなかったかも知る)、出来なかったことが出来る、そして、やれば出来る(出来そう)という実感を断続的に持てています。WBSでは、未経験の領域でも、自分の興味・意欲・努力次第で、知識や人的ネットワークを限りなく広げられることを確信させてくれます。素晴らしい”場”はあるので、あとはそこでどう過ごして何を得るか自分次第。牧ゼミのNormでもある”Diversity, Inclusion, Equity and Belonging”も実感しながら学び成長できる場所であることは間違いありません。
牧ワールドの”洗礼” 授業編
まずは授業。春のSTEは、迷わず履修申請したものの、本登録前に牧さんからの「履修者への手紙」を何度も読み返して悩みました。私だけではないと思います。『この先放り出されても、自分で世に氾濫する情報を見極め、因果推論し、問題解決して進んでいける「実力」をつける。学び方を変える。魚の釣り方(知識の学び方)を習得しなくてはならない』『そのためには科学的思考法を身につけなくてはいけないし、世界最先端のアカデミックな英語の定量研究論文を読み込まないといけない』とある。いやもう、尻込みするしかない文句がこれでもかと並んでいる。最後は覚悟が要ったが、挑戦は大変で当たり前だし、やりたかったことから逃げたくないので、「今どれだけ時間を割いて学ぶか」を最大化して乗り切る覚悟で履修することに。始まってみると噂通り。授業の負荷も求められるコミットメントも半端ない。そもそも膨大な英語の定量研究論文を読み込むだけでも気が遠くなるのに、統計手法も因果推論も妥当性評価も全て一からの学び。知識不足は時間をかけた努力で補うしかないし(私レベルでなくてもシラバスにある学習時間では足りません!)、「具体と抽象」を行き来する力をつけるというのはとても大変。毎週何を学び理論を実践にどう活かしたか問われる(理論の理解で終えてはいけない)。そして、ラーニングコミュニティでどう貢献できるか模索し続ける(これは負荷ではないのですが)。3回目の論文のひとつ(HBSのPeer Effectと起業家精神・起業の成功と失敗をテーマにした論文)”With a little help from my friends”を夜中に聴きながらテンションを上げて自習ビデオを繰り返し視聴したり、明け方近くまでチームで論文読み込んだり、ということもありました。そういうわけで、とにかく毎週(ほぼ毎日)STEのことが頭から離れない。勿論牧さんのコミットメントも半端なく、TA天野さんと藤居さんの運営サポートのもと、授業も毎回仕掛けや伏線があり”進/深化”していくわけで、必死の2ヶ月でした。深夜のサンディエゴからEric Floyd先生の講義も印象深いし、最終課題のRCTデザインは夢にまで出てきました。最終回で明らかになったことは、牧さんのシグナリングとインセンティブの設計に”どハマり”していたのだということ。それでもなんとか対岸に辿り着いた今、秋からは違ったスタート地点から新たな学びを開始できるような気がしています。STEの授業のコンテンツやクオリティ、その素晴らしさは多くの方が語っているので詳細は割愛しますが、個人的には、授業の趣旨への正しい理解とやり切る覚悟があればオススメ講義だと思います(『WBSの中心においてはいけない授業』(根来先生)だし、来年はなくなるかもしれない、ということだけれど)。
牧ワールドの”洗礼” ゼミ編
ゼミは、春学期から今に至るまで、私の学生生活においてコアな学びの場となっています。輪読で論文の読み方やビジネス実験を学び、授業とのシナジーも実感。AIやMachine learningの基礎を学び(M2のNicolasが先生)、海外のゼミ仲間(一部の留学生はまだ入国できていません)と繋いでmiroを駆使したデザイン思考ワークショップをしたり、M2修論テーマ発表を聴講したりしました。指導教員の牧さん、OBメンターの皆さん、そしてゼミ生全員の熱意が結集してとても濃い時間です。(ちなみに、M2メンバーのテーマや姿勢に感動したり、来年の修論にビビったり、研究テーマはCausationでなくEffectuationアプローチなんだなと思ったり・・しながらも、初体験の”ワールドカフェ方式”やオンラインツールの使いこなしで、色々忙しい!)。吸収の日々です。ただ、初めは何でも難しいのですが、同時に純粋に面白い!と思えて好奇心が尽きないところが我ながら意外。大変だけど苦にはならないのです。思考回路も随分変わってきたように思います。ゲスト講義も豪華です。6月の英語ゼミでは、Global Catalyst Partners Japan(GCPJ)MDの大澤弘治さん、5月の日本語ゼミでは、東北大学の福嶋教授にご講義いただきました。私は所謂ものづくり大企業で研究所勤務やIR・投融資業務、海外勤務を経験し、イノベーションや新規事業に関心を持ちつつも、技術開発から上市に至る難しさ、ベンチャーへの出資やコラボの難しさ、大企業イノベーションの壁のようなものに悶々としていました。大澤さんが実践されているStructured Spin-in(SSI)モデルという新事業創造スキームは、まさにそんな悩みに風穴を開ける投資戦略だと思いました。シリコンバレーでの長いご経験を元に日本の現状打破と課題解決のために構築されたスキームは、既に多数の実績を挙げられています。私もいつかこのモデルの当事者として何らかの立場で参画できたらいいなとの思いを強くしました。福嶋教授には、地域企業論や地域産業クラスター、エコシステム形成など広く教えていただきました。製鉄所や地方創生会議に企業の立場で関わった経験などと重ね合わせ、今後の地域・産学連携のあり方を考える上で大変勉強になりました。また、秋の山形鶴岡スタディツアーは延期になりましたが、慶應義塾大学先端生命科学研究所(IAB)を訪ねて冨田所長のお話をお聞きできる日を楽しみにしています。こうして牧さんから広がる人の繋がりやネットワークはとても貴重で得難いものです。まだ学びは”点”と”点“ですが、ここから研究テーマ、ひいてはWBS修了後のキャリアへ繋げていきたいと思っています。
牧ワールドの”洗礼” 番外編
最後に、牧さんからのPeer Effectを少しご紹介。Favor bankご存知ですか?「相手からお願いされることがうれしい」「相手が喜ぶことがうれしい」と思う気持ちを通い合わせることを言います。5つの大切なattitudeがあるという。1)共通の思い出を大事にする 2)将来の夢・志を持ち続ける 3)相手の気持ちを大切にする 4)多種多様なつながりを大事にする 5)相手に貢献できるタイミング、感謝の気持ちを示せるタイミングを大事にする。人生を豊かにする秘訣にもなるとのことですが、とても大切なことだと共感しました。特にWBSに入学して春Qを経験したばかりの私にはとても刺さりました。そして、もうひとつ。今、STEの授業で紹介されたd.school Reflectiveを聴きながら執筆しています。スタンフォード大学デザインスクールのデザイン思考ワークショップのBGMだそうで、ちょっと影響されすぎ感はあるけれど、少しでも冴えたアイデアが出ることを期待して、春からMy BGM化しています(さすがにこれを聴けばいいってことではないけど、気持ちは上がる!)。そして夏期末を終えてからは、復習を兼ねて積読解消中。ちょうど牧さんからFountain of Knowledgeの紹介があり、春の学びの”点”が、”線”そして“面”へと繋がっていく感じがとても刺激的です。課題本と思わないで読むと、素直に面白いと思えて理解も進むし新たな気づきも多く得られ、少し読むスピードが上がったような気もするから不思議です。
“牧ワールド”の魅力と”洗礼”
今春、WBSという魅力いっぱいのコミュニティに、そして、牧さんのコミュニティにご縁をいただくことになり、以降4ヶ月間、多くの学びや出逢いの中で、自分と向き合い他人に思いを馳せ将来を考える時間を持つことができました。脳と心の筋トレで鍛えられ、いくばくかは変容したはず(と思っています)。これからどこまで挑戦できるか成長できるか。人生何度かしかない大きな転機の一つになる予感がしています。これが”牧ワールド”の洗礼”の始まりです。長くなってしまったわりに、ほんの一端ですが、その魅力を少しでもお伝えできていたら幸いです。
最後に
牧さんをはじめとする先生方、TAやメンターをしてくださる卒業生や先輩方、そしてWBSで一緒に学ぶ仲間たち。入ゼミ以来お世話になり、今回のコラム入稿時期にもご配慮くださった秘書石井さん。皆さまと共に同じ時間を共有し支えられて学び合えることに心から感謝しています。これからも宜しくお願いします。
秋クォーターには「技術・オペレーションのマネジメント(TOM)」が待っています。間違いなく怒涛の秋になる予感。秋以降のWBS生活では、今までに得たもの、そして、入学前の自分からの反動を梃子に弾性値をあげ、より一層真剣に学び全力で駆け抜け、卒業時には、新しい自分をNarrativeできるように精進したいと思います。
次回の更新は9月10日(金)に行います。