[ STE Relay Column : Narratives 141 ]
高木 慶太 「山形鶴岡モデルでサラリーマンをイノベ―タに育成できるか」

高木慶太 / 損害保険ジャパン株式会社 / 慶應義塾大学先端生命科学研究所

[プロフィール]兵庫県神戸市出身。関西学院大学商学部卒業後、2008年に損保ジャパンに入社。以降10年間はリテール営業と法人営業に従事、自動車販売店での保険営業支援や、大手企業を取引先として保険に関わる企画提案を行ってきた。2018年4月に新規事業開発部門のビジネスクリエーション部(当時)に異動。損保ジャパンと慶應義塾大学先端生命科学研究所(山形県鶴岡市)の包括連携協定をきっかけとして、2018年5月に同研究所へ人材育成を目的に、一期生として派遣されている。
鶴岡では研究所でバイオを学ぶだけでなく、地方都市の課題に向き合い様々なプロジェクトに取り組んでいる。2021年5月からは慶應先端研・早大オープンイノベーション機構・損保ジャパンの三者間で共同研究をスタートさせ、鶴岡モデルに基づくイノベ―タ人材育成プログラムの開発を目指している。妻と子供3人の5人家族。山形県鶴岡市在住。

【東京勤務から山形県鶴岡市・慶應先端研への派遣、冨田所長との出会い】
慶應先端研は2001年に山形県鶴岡市で開所しました。20年間で様々な研究成果が発表され、今ではHMT、Spiber、ヤマガタデザインなど7社のベンチャー企業が立ち上がっています。
国内外から若い研究者が集まり、地方創生の成功モデルとも言われています。
東京の日本橋で勤務していた私は、2018年5月に慶應先端研へ派遣されることになりました。慶應先端研・冨田所長は企業人を受け入れる文理融合人材育成の取組をスタートさせており、その一期生として私は派遣されることになりました。出身学部は商学部、バイオを学んだことのない私が鶴岡で何をするのか不安と期待が交錯していました。 鶴岡で私に待ち受けていたのは、「ミッションを与えない」「放牧」という社内では経験した事のない環境でした。保険分野を離れ全く違うフィールドに送り出され、戸惑いながらも鶴岡で何をしたいか、何を成し遂げたいか自問自答を繰り返す毎日です。
最初は慶應先端研やベンチャー企業、鶴岡市役所とのネットワーク作りに力を入れ、自身の活動の方向性を探り、農業や地域活動など、会社の事業と関わりのない事にも力を入れました。
地方都市でリアルに存在する課題に触れ、地域の方々と一緒に課題解決に向け動く事からたくさんの学びを得ました。
また冨田所長やベンチャー企業の皆さんとの出会いによって、私は「世の中にどのような形で貢献するか、価値を生み出していくか」について深く考えるようになりました。これは間違いなく鶴岡に来たことがきっかけだったと思います。これまでに冨田所長とは色んな話をさせていただきました。冨田所長からはビジョンを持ってチャレンジすることの大切さを学びました。そしてSpiber関山和秀代表、ヤマガタデザイン山中大介代表を始め、同世代の経営者、そこで働く従業員の皆さんが使命感を持って突き進む姿に私は影響を受け、パッションを持つこと、巻き込むことの大切さなどを学んでいます。
鶴岡での経験は社内では得ることのできない貴重なものです。鶴岡に来た頃は何が始まるのか分からず、とにかく必死にもがいていました。ここで出会った方々や様々な経験によって成長する機会をたくさんいただいたと考えています。

【牧さんとの出会い、共同研究へ】
冨田所長をスターサイエンティストとして研究されていた牧さんは以前から鶴岡を訪れていました。
私が牧さんと初めてお会いしたのは2019年夏、ヤマガタデザイン長岡太郎さんを介してでした。
面談時間は1時間しかなかったのですが、鶴岡での取組についてプレゼン、牧さんから色んな問い掛けをいただき中身の濃い時間を過ごしました。
ここから牧さんや早稲田ビジネススクール(WBS)の皆さんとの交流はスタートしました。
2020年3月にはWBS学生による鶴岡スタディツアーを企画したり(covid-19の影響で中止)、遠隔でWBSの授業に参加させていただいたり、鶴岡の企業人育成をケース教材として扱っていただいたり、交流の幅が広がっていきました。
共同研究の話が加速したのは2020年9月です。私が慶應義塾大学大学院を卒業するタイミング、卒業後も鶴岡で何を目指し活動するかを思案していた時期です。
現在私は「慶應先端研を起点とした企業人育成モデルの構築」を自身のミッションと捉えています。
今や慶應先端研は東京の大手企業5社から中堅社員を迎え入れていますが、この取組にはまだまだ伸びしろがあると思います。
更に大きく育てるため、経験した私だからこそ感じる課題、改善したいことなどが様々あります。一期生として派遣された私には鶴岡でやるべきことがたくさんあると感じています。
慶應先端研は最先端の技術・研究では世界的にも知られた存在です。企業人育成の観点でも学びが多いと、私の活動を通してその価値を加えることができれば、私が派遣されてきた意味になるのではと考えています。
東京の企業人が鶴岡のフィールドをお借りして成長するだけでなく、地元企業や行政の方々も巻き込み一緒に成長できるモデルを作りたいと考えています。
こういったモデルを作りあげる上で、冨田所長や鶴岡、さらに私の活動にもご理解をいただいている牧さんの存在は大きいと感じています。牧さんにはこれまでも様々な形でサポートいただきました。これからは共同研究という形で我々と関わっていただけることに感謝すると共に、本プロジェクトがどのような形で展開されていくか楽しみにしています。

【これからの展望】
鶴岡モデルのように社外へ飛びだし様々な価値観に触れ、多様な人達とプロジェクトを進める。こういったことを繰り返し、動き続けることが企業に必要な人材育成に繋がると考えています。
一方で鶴岡の取組はまだ十分に認知されていません。私のように数年間鶴岡に社員を派遣するのは難しいという声もあります。
それを解決するために慶應先端研での学び、地方都市・鶴岡での学びをもっと短期間で体験できるプログラムを作れないかと考えています。今回の共同研究では鶴岡モデルをプログラム化することを目指しています。サラリーマンをイノベ―タに育成する手法を作り上げるのは簡単ではありませんが、山形県鶴岡市で展開される企業人育成のモデルはヒントになるように感じています。ビジネススクールで辣腕を振るう牧さんの知見やフレームワークをお借りしながら、一緒にワクワクするものを作りたいと思います。また牧さんとのご縁をきっかけにWBS関係者との今後の交流を楽しみにしています。牧さんの周りには渡辺崇之さん、天野達郎さんを始め学びに貪欲で、モチベーションの高い方が多いと感じています。こういった方々と刺激し合い、切磋琢磨できる関係を築きたいと思います。
今後も鶴岡モデルの実践者として、研究者として「慶應先端研を起点とした企業人育成モデルの構築」を目指し邁進していきたいと思います。また本取組に意義を見出し可能性を感じる方々と一緒に、鶴岡モデルを進化させていきたいと思います。

 


次回の更新は8月20日(金)に行います。