竹村 研治郎 / 慶應義塾大学 機械工学科 教授
超音波や機能性流体を用いたセンサ・アクチュエータ技術を基盤に、細胞培養の自動化・高品質化、触感センサ・ディスプレイ、ソフトロボットなどの研究を展開。
ビジネススクールの学生の皆さんと共同で何かを行うというのは初めての経験で、 “Lab to Market”には超音波モーターの要素技術としてのシーズを提供させてもらいました。これはアプリケーションがわかっているシーズを提供するよりも、まだキラーアプリケーションが明確でないシーズの方がWBSの学生の方と共同で取り組む価値があると考えたからです。
工学分野というのは、社会実装を目指して研究を行う分野です。社会実装を目指すにあたっては、社会ニーズの調査やマーケット調査なども必要となります。その分野で経験のあるWBSの学生の方とコラボレーションできるのは非常に有意義であり、工学研究者の視点では気づきにくい部分も発見してくれるのではと考えました。
実はシーズに関して技術的な論文を書く際にも対象分野において市場調査・市場予測がなされていて、当該技術シーズがどのように上市され、成長が期待されるのかが明確になっているほうが、シーズの意義をまとめやすいです。これは、シーズの社会実装部分までイメージをした方が、既存技術との差別化や、当該要素技術の将来像についても言及がしやすくなるためです。
今回の”Lab to Market”では、実際に4名の学生の方からなるチームと共同で、技術シーズである超音波モーターのシーズの活用方法について検討をしました。
最初に超音波モーターの特徴の説明や、電磁波モーターとの違いについて説明を行いました。その後、いろいろと話をしていく中で、最終的には超音波を利用した、別の研究分野(超音波を利用して、遠隔で触感や触覚をやりとりする技術)でのビジネス案を講義では練るという事になりました。確かに、このような触感を伝達する技術は今後大きな市場になるとの予測は出ています。その意味でも、今回の授業の中で練ったビジネスアイディアの方向性は間違っていないと感じています。
一方で、技術者とWBSの学生がコラボレーションできる貴重な機会なので、既に予測されている成長市場だけではなく、共に新たな市場を作り出すという挑戦的な商業化の案も今後は作り出せていければと期待しています。
日本全体の問題なのかもしれないですが、欧米から出たモデルや市場予測に引っ張られて、二番煎じのアイディアが多くなっていると感じています。科学技術への助成金についても、アメリカである分野への助成金がスタートした後に、日本も同様の分野にお金を出し始めるという傾向があります。私としてもその流れを変えたいと思っています。そのためには、何もないところからストーリーを生み出す訓練が必要だと考えています。技術の商業化に携わる人間が、そのような訓練をすることで、何もないところからストーリーを生み出せるようになり、それが日本の技術シーズの商業化にも大きな好影響を与えるものと考えています。
今後も、“Lab to Market”を通じて技術者とWBSの学生がうまくコラボレーションを行い、技術シーズを利用した市場成長のシナリオを多く作っていってもらえれば自然とその流れが出来るはずです。
“Lab to Market”の今後のさらなる可能性に期待したいと思います。
次回の更新は5月21日(金)に行います。