神谷 宗 / 早稲田大学 経営管理研究科
はじめに
牧ゼミ所属のM1神谷と申します。2020年度秋学期の牧ゼミ(日本語)では、所属企業や事業承継先の会社について、ケース執筆を行っています。理由としては、ケースの執筆活動(自社へのインタビュー等)を通して、所属企業や承継先をさらに深く知るためになります。
私に関しては、実家が瓦製造業を営んでおり、将来そちらを承継する予定のため、父へのインタビューを行い、承継先企業のケースを執筆させて頂きました。そして、今回のColumnでは、このケース執筆活動が私にとってとても有意義な時間となったため、それらについて記述させて頂きたいと思います。
事業承継先の歴史
今回私のケースでは、承継先企業が過去に実施した新事業領域への参入までを題材にしており、そのケースを書くに当たって、承継先企業が当時保有している強みや弱み、なぜ・どのようにしてその強みや弱みが構築されてきたかという歴史と共に説明する必要がありました。そのため、質問リストを作成し、父へのインタビューを行って、歴史と共に承継先企業を深く理解するように努めました。恐らく、そのまま事業承継先に入社していたら、まずは現在や新しいことを優先して学ぶ必要があるため、なぜ今の事業を行っているのかということを理解するのは後回しになっていたかと思います。
ではなぜ、事業承継先企業の「歴史」を学ぶことが重要なのでしょうか。それは、「見えない資本(=ブランド)」を理解できるからと個人的に考えています。個人的に考えているといっても、この「見えない資本(=ブランド)」の重要性については、牧ゼミにゲストスピーカでお越し頂いた加藤宗兵衛さん(10代目)に教えて頂きました。「見えない資本(=ブランド)」とは、企業が事業を通じて貯めてきた信頼・信用などの暖簾の価値を指すのですが、事業承継者はこれを引き継いでいく必要があります。加藤さん曰く、この「見えない資本(=ブランド)」を理解せずに大切にしない跡継ぎが非常に多いと仰られていて、そういった意味でも、事業承継先企業の歴史を知ることによって、先代が積み上げてきた信頼・信用というものはどういうものかを理解することが出来て、とても有意義であったと感じます。
父との対話の増加
私は元々父と会話をするのは、帰省をした時のみで、年に2〜3回程度でした。また、帰省をしても母が会社の話を嫌うのに加えて母と私と私の妻で会話することが多く、承継先の事業について詳しく話をすることは今までほとんどありませんでした。しかし、今回のケース執筆においては、纏まった時間父との電話やZoomをすることによって、今まで会話が少なかった父との距離が非常に縮まったように感じます。
また、父自身も、衰退産業である瓦業界において、今まで生き残れた理由を私に伝えつつ整理出来たことによって、今後どのような選択をするべきかの参考になったと仰っていました。さらに、話が少し逸れますが、父は今までZoomなども使ったことのないアナログ人間だったのですが、昨今のコロナ禍においては、父も先方とZoomでのミーティングをしなくてはならない状況にあったらしく、たまたま私がケース執筆のためのインタビューのためにZoomを使用したいと申し出たため、先方とミーティングをする前にとても良い練習になったと言っており、地味な所ですが思わぬ所で相互にメリットがありました。
実践事例研究のすゝめ
牧さんからのご紹介で、ケースを書く際の要点や良いケースとはどのようなものかなど、ケース教材を書きたい人に役立つ授業として、実践事例研究(秋クォーター科目)という授業があることを教えて頂きました。最終発表では、5名の名だたる教授陣の前でケース教材について発表を行うのですが、それぞれ異なる視点での質問や助言を頂くことが出来て、承継先についてさらに深く理解しておくべき事柄などを知ることが出来ました。また、それらアドバイスが自分の修士論文の題材に繋がる成る可能性があるため、特にM1でこれからまだまだ所属企業や事業承継先について深く知っておくべき人や論文のテーマに迷われている方にとっては、知見が増える良い機会のため、非常におすすめの授業であります。
おわりに
私の事業承継先は、規模的にあまり大きくなく役職等ほぼないため、インタビューは父のみにしか実施しませんでしたが、様々な役職がある企業の事業承継者は、多くのキーマンから事業承継先のお話を聴くことが可能になるので、多角的に自分の承継先企業を知ることが可能です。また、このような機会がないと、面と向かって父親とお話する機会がない人もいるかと思います。そのため、そのような人にとっても、対話のきっかけになると思いますので、是非ケース執筆や実践事例研究を履修することをお勧め致します。
以上
次回の更新は3月5日(金)に行います。