三木 則尚 / 慶応義塾大学 理工学部 機械工学科 教授
マサチューセッツ工科大学航空宇宙工学科ポスドク研究員、リサーチエンジニアを経て、2004年より慶應義塾大学理工学部機械工学科専任講師。2017年より同教授。
マイクロ・ナノ工学をベースに、医療やICTへの応用研究を遂行中。2017年5月に新しい減塩を実現する株式会社LTaste創業。
慶應義塾大学理工学部国際交流委員長。慶應義塾大学体育会スケート部部長。趣味は、キューバ音楽、アメリカンフットボール、釣りなど。
ビジネスの経験があるMBAの学生が実際の研究シーズを利用して商業化を考える「Lab to Market」は研究者からしてみると、研究シーズの“出口戦略”を考える良い機会になると思います。また、MBAの学生からみても、理工学部の研究者と話をすることは科学技術の商業化を今後考えるにあたりいい機会だと思います。
このようなMBAの学生が研究シーズの研究者と直接やり取りをして商業化を考える仕組みは私が在籍していたMITでも行われていました。MITではMBAの学生が理工、工学系の研究室のなかをウロウロしてビジネスの種(シーズ)を見つけて、ビジネスプランを発表し、賞金も獲得するという仕組みが20年前から続いています。
「Lab to Market」はMITの上記の仕組みを講義内で効率的に行える点からもシーズを提供する研究者そして講義に参加するWBSの学生の双方から見て非常に意義があると考えています。
実際に今回、牧先生の「Lab to Market」に出したシーズは「人工腎臓プロジェクト」ですが、既にある程度ビジネスプランを検討していたものを提供しました。そのため、MBAの学生から見るとビジネス化を検討するのは比較的楽だったのかもしれません。この人工腎臓のプロダクトの開発には、多額の研究資金や研究開発活動の継続が必要となります。そのため、リソースが割けない大企業での商業化よりも、ベンチャーを立ち上げて商業化を行ったほうがいいと考えています。その代わりに、大きな医療機器メーカーや将来的なパートナー企業を探して、そこから資金提供を受けて商業化を進めていく必要があると考えています。
今回「Lab to Market」においてMBAの学生と議論したことにより自分自身も刺激を受けまして、実際に大学で行われたビジネスコンテストに応募し、気合の入ったプレゼンを行いました。その結果、審査員特別賞を受賞してしまいました。
このように、「Lab to Market」の中で研究者がMBAの学生とビジネス化について議論をすることにより、自身の技術シーズのビジネス化を考える非常にいい機会になったと思っています。
一方で、今後の取り組みがさらに実りあるものにするために不可欠な課題があります。
それは、学生側が対象の技術シーズのビジネス化を本気で考えるという事です。
科学シーズのビジネス化というのは、簡単に出来るものでは当然なく、多くの困難が待ち受けています。特に基礎的な研究であればあるほど、時間もかかります。「Lab to Market」で対象となった技術シーズについて、学生側は安易に仮定を置き、ビジネス化を考えるだけでは足りないと感じています。ビジネス化に際して、解決する課題について、他に代替的な技術がないか、顧客目線で見た際に適切なサービスを提供できるかなど、決して近視眼的にならないようにする必要があります。場合によっては、「この技術シーズでは商業化が無理です」と研究者に言えるぐらいの、本気度も必要だと感じています。
また、大企業の中でビジネス化する場合と、ベンチャー企業を設立してビジネス化する場合とでは、スキームも大きく異なります。ビジネス化を検討するという事は、その部分まできっちり検討することも大事です。
学生側も、「Lab to Market」を通して技術シーズの商業化に本気で取り組む、そこに研究者も議論に熱く加わる、これこそが非常に大事だと感じています。
研究者が技術シーズを提供しMBAの学生が研究者と議論をしながらビジネス化を本気で検討する。この「Lab to Market」の取り組み自体に大きなポテンシャルがあります。そこで、研究者そしてMBAの学生がどこまで本気で語り合える、その事が、この取り組みの成果を大きく変える重要なファクターだと考えています。
研究者の観点からも、多くの技術シーズが「Lab to Market」で議論されることが重要だと考えています。
このような唯一無二の取り組みを行う「Lab to Market」に多くの研究シーズ、そして熱量を持った学生が集まり、研究シーズが新たに世の中に羽ばたいていく、そんな将来を目指してください!
次回の更新は2月26日(金)に行います。