朝日 透 / 早稲田大学 理工学術院 教授 博士(理学)
専門はキラル科学、生物物性科学、ナノサイエンス、機能性膜。
私は、文系と理系という壁を越えて、教員と学生、起業家、または大企業のトップの人達との交流を増やして、そしてそこでの出会いをもとに自分のモチベーション高めて新しいことに挑戦するような人材を育てたいと考えています。その中で、牧先生から「Lab to Market」という、新しい授業を始めるから協力してもらえないか、という声がかかりました。
その授業は、テクノロジーをベースに何か新しい、起業の手前まででも良いから、ビジネスモデルもしくは商業化モデルを提案することを目標としていて、そのためのシーズを提供してもらえないかということでした。
私たちの研究室の谷口卓也講師がメインで研究しているものに、光と熱により曲がったり移動したりする、という特性をもった結晶があります。特に有機結晶に着目しており、一般的なロボットで使われているような硬くて重い金属材料を、柔らかくて軽い有機材料に置き換えることができるようにする。そうすると、非常に扱いやすいということやコストを下げることができ、更に人と接するようないろいろな場面で、少し温かみを出すようなロボットに応用することができる。そういった応用を考えた基礎研究をやっておりました。
この研究をLab to Marketのシーズとして提案をさせて頂いたところ、2つのチームの皆さんが色々な提案をしてくださいました。ソフトロボットを利用した機器内部の点検ロボットや、ソフトロボットを使った深海の環境保全などのアイディアを提案して下さって、とても感動的でした。私たちのところにいる理系の学生たちや、または若いや研究者だけだと、なかなかここまでは作り込めないだろうなということを提案してくれました。その後にいただいた資料もしっかりしており、私たちの研究室の活動にとっても非常に有意義なものでした。
もう一つ私の研究室ではコオロギのゲノム解析とコオロギを食用・飼料化するという研究テーマがあります。その研究を題材にしたビジネスの提案もいただきました。具体的には、ブランド養殖ウナギ、ブランド鶏卵、飼料への食用コオロギの活用など。「コオロギのビジネス化のイノベーションは辺境からやってくる。コオロギという新しい知で日本からイノベーションを起こしましょう!」という提案書を、授業を履修している学生さんたちが作ってくれました。このコオロギや関連するゲノムの研究は、社会課題を解決する可能性が高いこともあり、文系と理系が融合した研究テーマになっています。ゲノム編集などのテクノロジーを使った、食用コオロギを用いたビジネスにも、我々は今取り組んでいます。私たちの研究室の博士の学生で今休学中の葦苅晟矢さんは、カンボジアでNGOの協力を得て、、実際にコオロギのパウダーを作っています。また、私たちの共同研究先となっている徳島大学のグループではコオロギ煎餅が販売しており、このような外部のグループとも、私たちはコラボレーションしています。早稲田大学で閉じるのではなくて、グローバルな社会課題・研究・ビジネスに取り組んでいくために、日本の中では同じようなことを考えている人たちと一緒に取組もうということで、コラボレーションが広がっています。
コオロギラーメンで有名になりました慶應大学出身の篠原さんと先ほどの葦苅さんは、26歳の同じ年です。私はそのような若い学生や若い人達が新しいことに挑戦するというマインドを持って本当に実行するということが大変重要だと思っています。
私が関わっているWASEDA-EDGEでは、そのような若い人材が挑戦するきかっけのなるようなプログラムを作っていますし、これをどんどんみんなで一緒に広げていきたい。牧先生には、WASEDA-EDGEの中でもMicroMBAという理系人材へのミニMBAのプログラムをUC San Diegoとの連携で進めていただいています。このような活動を通じて、テックベースの起業をどんどん増やしたい、大企業の中でのイントラプレナーも育成したい、それが私の思いです。
今回ご一緒した「Lab to Market」という新しい授業は、理工系の研究室にとっても良いアントレプレナーシップ育成の場にもなり、またビジネス化へむけたビジネススクールとの良い連携の場として機能していると思います。ぜひこれからもよろしくお願い致します。
~STE Innovation Narrative Series Vol.004 講演より~
次回の更新は11月6日(金)に行います。