石倉 浩司 / 早稲田大学大学院経営管理研究科/ 外資系製薬企業
基本的に深く考えることは苦手であり、直感型の筋肉脳タイプ。実際、これまでボクシング、アメフト、空手と筋肉系スポーツばかりやってきている。
● はじめに
多くのビジネスマンにとって、故スティーブ・ジョブスのような聴衆を惹きつける格好良いプレゼンテーションは憧れだと思う。本屋に行けば、プレゼンテーションのいわゆるハウツー本は多くあり、誰もが一度は手にしたことはあるのではないかと思う。しかし、ZoomやTeamsなどリモートでプレゼンテーションを行うことを前提に書かれた本は少ない。なぜなら、これまでは聴き手が目の前にいるものこそがプレゼンテーションであり、聴き手が目の前にいないテレカンなどで行うものは単なる説明と考えられていたからである。プレゼンテーションと説明は一緒ではないか、という人もいるかもしれないが、私は全く違うと思う。プレゼンテーションは自らの五感を使いながら相手の感情を動かし、相手を腹落ちさせることである。一方、説明は決められた内容を話し、相手に知らせることである。このことからも、リモート・プレゼンテーションのレベルを上げることは重要といえる。
前置きが長くなってしまったが、このリモート・プレゼンテーションが今後のビジネスやアカデミアで主流となる事象が2020年に起きた。COVID-19である。COVID-19感染リスク拡大による緊急事態宣言・外出自粛要請で多くの企業がテレワークを導入し、WBS(Waseda Business School)もオンライン授業を導入した。WBSの名物講義である「科学技術とアントレプレナーシップ」もオンラインとなったが、学生のプレゼンテーションを主体に進める講義であるため、学生の間でプレゼンテーションの方法に対する戸惑いの声が上がった。そこで、この講義のコミュニティで立ち上がったSlackに「Zoomプレゼンをうまくいかせるコツ」なる掲示板を作成し、みんなの意見を収集してパターン・ランゲージを作成することになった。パターン・ランゲージとは、多くの成功事例の中に共通してあるコツ(要因)である。普段、そのコツは暗黙知となっているが、抽出し、形式知化したものがパターン・ランゲージである。以下に、みんなの意見から生まれた7つのリモート・プレゼンテーションのパターン・ランゲージをあげる。
● 7つのパターン・ランゲージ
1. インタラクティブ
リモート・プレゼンテーションでは相手の顔が見えない。プレゼン中、相手の反応がわからず、一人で何ブツブツ言っているのだろうと思ってしまうこともある。しかし、見えない相手だからこそ、そばにいると思って語りかけ、相手と相互理解をしなくてはいけない。
2. カメラ目線
相手が目の前にいるプレゼンテーションでは、相手の顔や目を見るが、リモート・プレゼンテーションでは、自分のPCの画面を見てしまう。画面の向こう側にいる相手にとって、これは自信がない、こちらを見てくれていないと映ってしまう。そうならないように、PCの画面ではなくカメラを相手の目と思って話す。
3. ゆっくり・抑揚のある声
リモート・プレゼンテーションでは、緊張と不慣れのせいで話すスピードが速くなったり、単調になったりする。これでは、相手は付いていけないし、眠気を誘ってしまう。ゆっくりと抑揚をつけたプレゼンテーションで、相手を自分のストーリーに乗せる。
4. 2画面
相手の顔を見ながらもっとインタラクティブにしたい人は、2画面にすることが推奨される。一つはスライドを見るため、もう一つは画面の向こうの相手の反応を確認するためである。追加モニターの購入もしくは2台のデバイスでミーティングにログインで実現できる。
5. 大きな字・大きな図
講義室でのプレゼンテーションとは異なり、リモート・プレゼンテーションはPCで視聴するため小さな字や図では見えない場合がある。相手のことを考えて、大きな字・大きな図でプレゼンテーションをつくる。
6. 事前資料への工夫
リモート・プレゼンテーションは、長時間になると相手の集中力が持たない。カットしてもよいと思われる内容は、プレゼンテーションの中からは省き、代わりに事前資料の中にAppendixとして添付する。
7. 伝えたい内容に集中
上記6とは逆に、プレゼンテーションの中では伝えたい内容に集中することが重要である。それにより相手の集中力を高め、必ずTakeawayを得てもらう。
● これからの発展
先に述べたが、COVID-19後のニューノーマルでは、リモート・プレゼンテーションが主流になると思われる。是非、この7つのパターン・ランゲージを駆使して、より効果的なリモート・プレゼンテーションを行っていただきたい。また、Zoomのようなシステムを使うからこそのメリットもあると思う。例えば、プレゼンテーションの間に効果音やバックミュージックを流すことや、バーチャル背景とスライドを効果的に合わせるなど、より面白い試みがあるのではないだろうか?リモート・プレゼンテーションをより進化させるために、皆とまた議論していきたい。
● 謝辞
最後に、Slackで多くのご意見をいただいた牧先生、Yoshiyuki Fujiiさん、S Morishitaさん、Taiki Takeiさん、Rolaさん、ハラミサさん、MORITA Yoshitoさん、中本広計さん、mfujiiさん(牧先生以外は、Slackでの名称)、本当にありがとうございました。
また、2020年春Q「科学技術とアントレプレナーシップ」を一緒に受講した皆様、本当に勉強になりました。皆様に感謝申し上げます。
次回の更新は7月10日(金)に行います。