大角 知也 / IQVIA サービシーズ ジャパン株式会社
これまでの人生で最高かつ最濃(最も濃い)の春夏秋冬だった。本当に多くの方々に支えられ、2020年3月に早稲田大学ビジネススクール(WBS)を修了できた。2回目のコラムを掲載させていただき、感謝しています。1回目は牧ゼミが始まる前に掲載いただきました。
1回目は牧ゼミへの抱負を記載しましたので、2回目は牧ゼミでの1年間を振り返り、感謝の気持ちを伝えることと、どんなことをして、何を感じたのかを記載したいと思います。よろしくお願いいたします。
非常に濃いい1年だったため、季節に分けて記載します。3月にゼミ生全員で振り返りコラムを記載しているので、個人的な振り返りを行いたいと思います。
●春
ゼミ開始前の2~3月、ゼミが開始した4月~6月には基礎固めを行った。
・アントレプレナーシップについて考えたり、自分は何者かを考える機会を多くいただいた。
・レジュメ(プロフィールと職歴を1~2枚にまとめた応募書類)の作成や研究計画書、自分の夢を作成す津ことで自分自身の整理ができた。
・「科学の経済学」を輪読し科学的思考法を習得した。
・牧さんの人的ネットワークのお陰で豪華なゲストが来ていただいた。アメリカの最前線で活躍されている方、元衆議院議員・大学教授の方々など。
ここではアントレプレナーシップとレジュメについて振り返りたい。
アントレプレナーシップについては、映画「オクトーバースカイ」を鑑賞しアントレプレナーシップの自分なりの定義について考えた。そして、ゼミ生同士でその定義をシェアした。その時の私の定義は、「positive person who drives things forward with failure, risk and friends」でした。映画の中で主人公は先生や仲間に支えられながら、失敗やリスクと共に前へ進んでいたことが印象的だったためである。修了時にも発表するのだが、その時は「driving with failure, friends and perspectives」とした。やはり失敗と仲間は大切だと思ったことに加え、視野という言葉を追加した。視野も必要だと思った。WBSにミッションにもinsightful leaders with global perspectivesがあるし、視野を持つためには学びが必要で、修了後も学んでいくことを自分に課するようにperspectivesを追加した。
レジュメについては作成するだけでなく、シリコンバレーのヘッドハンターとZoomで繋いで添削をいただけた。レジュメを書くポイント、自分をブランディングすること、マーケティングする大切さをご教授いただいた。自分のキャリアの棚卸をすることで何がしたいのか、何が足りていないのかなどを考えるキッカケになった。
ゼミと並行して牧さんの授業で英語の定量論文を週に6本を取り扱うという修行も受けていた。最初は慣れなかったが、少しずつポイントがつかめるようになった。
Stata(統合型統計ソフトウェア)を触り始めたのも春からであった。この時は軽い気持ちでやっていたが、まさか修士論文の作成の際に、ここまで使うとは思ってもいなかった。。。
ゼミが始まってPhDを持つ2名やIT業界、同じヘルスケア業界の刺激的な仲間と共に楽しく過ごした春であった。自分自身について深く考えることもできた。
●夏
・輪読「その問題、経済学で解決できます。」やCiplaのHBRケースを全日の学生とディスカッショを行った。
・スタートアップ関連のゲストも来ていただき、非常にリアルにスタートアップについて学ぶことができた。
ここではCiplaのケースと牧さんとHiDEP(Healthcare Innovation Design Entrepreneurship Program)@京都に参加させていただいたことを紹介したい。
Ciplaのケースではグローバルな視点で議論ができ、新たな気づきが多くあった。これも牧ゼミの特徴である全日制の留学生などがいることの良さであると思う。Ciplaについて少し紹介したい。当社はリバースエンジニアリングを用いてインド国民に対して安価なエイズ治療薬を提供したジェネリック医薬品の会社である。安価なエイズ治療薬の供給を通じて、多くのエイズ患者を救ってきた。しかし、問題もあった。例えば、当社が安価なエイズ治療薬をインドで供給することにより、エイズ治療薬を開発した先進国の製薬会社は、インド市場での収益機会を失うことになる。牧ゼミには、製薬会社の社員や途上国の官僚などがいるため、それぞれの立場から多くの意見が出た。社会正義の観点からは、先進国の製薬会社が収益機会を失うことは仕方ないのでないか。私達は、ビジネスの観点と社会性の観点から議論を進めました。そして、経済面や法制面、倫理面、さらには先進国と途上国それぞれの観点から考えることの重要性について学ぶことができました。先進国の製薬会社が新薬を開発するインセンティブを維持するためには、当社の行動を認めるべきではないのではないか。その中で、発展途上国の官僚の一人が述べた次の言葉が印象的でした。「君たちは、途上国の現実を全く理解していない。」と。この一言から「ケース」というバーチャルなものから、リアルに一気に引き込まれた感覚があった。机上の空論ではなく、想像力を高め、現場を知り、リアルに考え行動する重要性を再認識した出来ことであった。
7月には牧さんと京都へHiDEPに参加させていただいた。京都大学関連の医師や看護師、企業の方々などを対象に牧さんが講義を行うところに私も参加させていただいた。「デザイン思考」のケーススタディ研修でした。ケースメソッドの意義、ブレストのプロセスやコツ、プロトタイプ作製の目的、現場観察・インタビューでの留意点、チーム作業の進め方など牧さんと研修を企画・運営させていただけた。事前準備から当日の運営に至るまで牧さんと時間を共にし、牧さんの暗黙知(研修の立て付けから進め方のノウハウなどなど)を得ることができた。スピルオーバー効果を得ることができた。その後の研修やイベント企画などにおいて非常に有意義なインパクトを与えている。
9月はSan Diegoで牧さんのキャリアを感じることができた。詳細は2期生全員で記載したコラムをご確認いただければと思います。
そこに記載のないお話をすると、私は西海岸の素敵な雰囲気の中、一人、悶々と修士論文について悩んでいた。牧さんにも朝からカフェで相談に乗っていただくなどサポートいただいたが、なかなかテーマを決めきれず。。。一方で、同期はしっかりと進んでいるし、自分だけが置いていかれる感覚と、これまでの学びの総量が圧倒的に少ないことを感じた。ゼミ同期に言われた「論文は孤独な作業なんですよ」という言葉が身に染みた。
1年間をグラフにすると下記のようなイメージ。9月がどん底に辛かった。
●秋
修士論文のテーマも決まらないまま秋に突入。HBR(Harvard Business Review)の輪読や修士論文関連の論文発表を行った。秋は修士論文モード。
ゼミ同期から「15分考えてアイデアが出ないのはインプットが足りないということですよ」という助言を心に留め、様々な書籍や論文を読みインプットを行った。
10月にやっとテーマとデータセットが定まった。統計ソフトStataを回しまくる日々。回すためにStataの勉強を並行しながら。。。そして、様々な方にも相談させていただきながらリサーチクエッションを検討。すぐにリサーチクエッションが定まるわけもなく試行錯誤。Stataにも少しずつ慣れてきたが、要領悪く何度も解析しながら夜明けまでStataと格闘。ゼミ同期とゼミ後の食事の際に変数を設定することができた!それでもなかなか出口が見えない。11月は本郷で合宿したり、12月に牧さんと半日テルマー湯に籠ってスケルトン(修士論文の骨格:リサーチクエッションと仮説)を何度も何度も作り直したりした。おそらく牧さんが最も世話を焼いたゼミ生だった。いや間違いなく。
年末もスケルトンの作成のため家に籠って取り組む。兵庫の自宅に戻っていたため、Zoomで牧さんからもご指導いただき助かった。また、牧ゼミの1期生の高山さんにもZoomに参加いただきアドバイスをいただく。非常に助かった。そうこうしているうちにスケルトンが完成しないままStataとともに年越しを迎える。
●冬
2020年になってしまった。修士論文の提出は1月12日。残り10日で仕上げなければならない。残り2万字。1月3日にようやくスケルトン完成。牧さんからもOKをいただく。ここからも大変。まずはアブストラクトを仕上げる(アブストラクトの作成だけでも大変)。そして、先行研究を記載し、Stataで重回帰分析をした結果を貼り付ける、考察と本研究のリミテーションも記載する。あっという間に修士論文提出の前日になった。
提出日の前日、牧さんの研究室で夜中2時まで取り組んだ。出前でステーキ弁当を頼みパワーチャージ。そのまま寝ずに最後の仕上げを行う。提出日当日を不眠で迎え、朝の太陽を見て、鳥のさえずりを聞くと焦りが高まる。最後の最後までゼミの先輩の高山さんからサポートをいただき、何とか23,864文字を書きあげた。ゼミ同期との待ち合わせ時間にも遅れ迷惑をかけてしましまった。同期のみんな、改めてごめんなさい。同期の徳ちゃんにサポートいただき、無事に提出できた。このご恩は一生忘れません。そして、3期生の皆さんの時は私がサポートできるよう準備しておきます。
ということで、何とか「医療用医薬品の臨床開発を成功させるのはベンチャー企業か大企業か ~エマージングバイオファーマと大企業のアライアンスのすすめ~」という修士論文を提出することができた。
提出した後の安堵感。そして、提出後にWBS同期で飲んだワインの美味しいこと!その飲み会でPDFを事務局へ提出することを忘れていることに気づかされ、ぎりぎりセーフで事務局へ提出。徹夜だったので、1軒で帰宅し仮眠。起きてから牧さんといつもの「地下のバー」でワインで乾杯。人生生まれ変わっても、その苦労はやり直したくない、と思う苦労の体験についてお話しました。生まれ変わってももう一回経験したいと、自信を持って言語化することを牧さんがされた。私もいつかこの経験をそのように言語化できる日が来るように精進していきたい。
この「地下のバー」では牧さんから多くの事を学ばせていただいた。階段を下って左、いつもの席に座る。授業の事やゼミの事、様々な研究やスターサイエンティストの事、アメリカの事、これまでの人生やこれからの事などなど、本当に多くのことを互いにお話することができる私にとってのもう一つの教室のような存在であった。
さて、修士論文を提出して終わりではなく公開審査会を経てWBSを修了となる。この公開審査会のスライド作成からプレゼンの練習までもたいへんな修行であった。まずはプレゼンとは何かということをゼミで学び、スライドの作り方、プレゼンのオープニングからクロージングまでの流れを練習した。これほど準備したプレゼンはなかったのではないだろうか。この準備のプロセスだけでも多くの学びと経験ができた。相手への見せ方、ストーリ作りなどなど。
そして、公開審査会当日。WBSは他のゼミと合同で行うスタイル。組み合わせの相手は平野ゼミ。会場は立ち見が出るほど満員の状態。50音順で私が牧ゼミのトップバッター。相手はWBS入学の最終面接で面接官だった平野正雄教授。最高の舞台。かなり緊張し時間の感覚が一瞬吹き飛んだが、なんとか時間内にプレゼン完了。最後に平野先生からも面接のときのことを覚えていることや、この2年で牧さんのご指導の下、成長したことを評価いただけた。
3月、無事に修了の連絡をいただく。まだ何も終わった気がしない。やっとスタートに立った状態。これからも学んだことを活かして行動していきたい。
残念ながらCOVID-19の影響で修了式はできなかったが、教員の皆さんのご理解とご協力、そして、WBS同期とのコミュニティのチカラを集結しオンライン卒業イベントができたことは最高の思い出です。
●全体を通じて
ゼミでは最高の同期と先輩から大きな学びと刺激をいただいた。輪読を通じて、同じ本だけどゼミ生同士で議論し多角的な視点を持つことができた。また、Zoomを用いて香港、アメリカ、日本の3拠点で実施したことは、今のこの状況でリモートで物事を進めていくことに貢献している。これからもゼミというコミュニティで繋がって互いに切磋琢磨できれば嬉しいです。
そして、何より牧さんからのご指導に心から感謝している。MBAで学びたいと思っていた以上のものを学ばせていただきました。知識やスキルだけではない、もっと人生において大切な考え方や取り組み方について、いつも真摯な態度で示していただきました。私がこれまで自分自身で気づいていない自己を何度も知らせていただきました。40歳という人生の折り返し地点で、これから残り半分の人生の中でやりたかったこと、やらなければいけないことをやる機会を多くいただきました。また、過去にやってこれなかったことにも逃げずに向きあう機会をいただきました。ゼミ長としての役割を十分果たせていませんので、これからのコミュニティの中で、牧ゼミ二期生のゼミ長としてコミットして貢献していきます。まだまだ弱い人間ですが、これからもご指導よろしくお願いいたします。
今日は昨日までできなかったことだけをやってみたい人へ
次回の更新は6月19日(金)に行います。