[ STE Relay Column : Narratives 082]
中谷 義昭 「早稲田大学におけるオープンイノベーション戦略の取り組み」

中谷 義昭 / 早稲田大学オープンイノベーション戦略研究機構 副機構長・統括クリエイティブマネージャー

[プロフィール] 1978年3月早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了(電気工学専攻)、同年4月三菱電機株式会社に入社。電力・産業システム事業所公共部長、電力・産業システム事業所副事業所長(兼)品質保証推進部長、神戸製作所副所長、受配電システム製作所長、役員理事・系統変電システム製作所長、常務執行役・電力・産業システム事業本部長などを経て、2014年4月専務執行役・電子システム事業本部長に就任。この間、プロフィットセンターとしての製作所業績の向上や、スマートグリッド事業の立上げ、宇宙事業担当本部長としての自動運転技術開発の推進に貢献。また、電力送変電技術の世界会議である国際大電力システム会議(CIGRE)の日本国内委員会副委員長を務め、電力技術に関する大学・電力会社・産業界の立場を超えた議論のとりまとめ、委員会運営に取り組んでいる。

 早稲田大学オープンイノベーション戦略研究機構副機構長・統括クリエイティブマネージャーをしております中谷義昭です。
本機構は2018年10月に、文科省の整備事業として採択されました。採択条件の一つに、統括クリエイティブマネージャーは「外部招聘、企業経営経験者であること」で、私が母校から呼ばれた次第です。その設立趣旨は、「民間企業」相手に、「競争領域(クローズドな)研究」を、「組織対組織」で推進することです。
そんなことできてないの?が、最初の私の印象ですが、この仕事に関わってみると認識が新たになってきました。大学も企業も、革新と変革(Innovation and Transformation)が必要であると。

経歴
 私は1978年に早稲田・理工・大学院修士を修了し三菱電機に入社しました。今年で42年間在籍し、メーカー一筋の人間です。32年間は複数の工場で生産や工場経営に携わり、残り10年間は本社役員室で事業経営、会社運営等に関わってきました。社会インフラ系を主体に数多くの事業を経験してきましたが、研究開発部門に在籍したことはありません。事業経営側から、研究開発に関する方針決定、リソース投入などの意思決定に関わりましたが、企業と大学との共同研究の現場・実態を知る由もありませんでした。

早稲田のオープンイノベーションはどうあるべきか
 日本企業の出身ですので、以下の話はグローバルなビジネスパーソンを目指す皆さんには少々ドメスティックかもしれませんがご容赦下さい。
 早稲田からオープンイノベーションに取り組みたいと招かれました。しかし、オープンイノベーションを推進すべき主体は企業であります。日本の企業は、これまで自前主義(クローズドな開発環境)で戦ってきました。我が世の春を謳歌した「技術立国日本」は、人口減少、高齢化、グローバルプレイヤーの多様化、デジタライゼーションの波が押し寄せ、自前主義のイノベーション能力だけでは立ち行かないことに気付き始めました。つまり何かが変わらなければ日本の産業競争力は低下していくということです。
 そこで、早稲田はどう応えるのかということです。WasedaVision150では、教育・研究につぐ第三の役割として社会価値創造を上げ、研究の社会実装を加速すると謳っています。そのことを具体化し、前述した日本の産業競争力復活に資する活動として合流させることが本機構の大上段に構えたミッションです。
 具体的には、大学研究者に対して研究シーズの補完、発掘を求める属人的従来型(と考える)に加え、課題解決、新事業創発のロードマップを共有したプロジェクト型にて、大学の知のシナジー、異種の発想を引き出した、研究開発のキャパシティそのものを補完するイノベーション活動を目指しています。大学も企業も、旧来の常識と厚い壁があります。その為の研究マネジメントをどう進めるか悪戦苦闘しています。イノベーションに企業側では保守派最右翼(抵抗勢力)であったかもしれない私が、早稲田にきてその破壊者になろうとしていることに人生の楽しさを感じています。

科学技術と新事業創造リサーチファクトリーについて
 2019年12月、オープンイノベーション戦略研究機構では、牧准教授をPI教員とする新ファクトリーを発足いたしました。この「科学技術と新事業創造リサーチファクトリー」はいわゆる理工学系の共同研究にとどまらない、早稲田の人文・社会科学系の強みを生かした文理融合のコンソーシアム型ファクトリーです。企業が新事業創発にあたり、如何にしてイノベーションを起こしていくのかといったプロセスの共同研究を実行していただくことで、自社のイノベーションへの変革、あるいはイノベーション手法の開発そのものを目指すものであり、早稲田大学特有のファクトリーとして期待をするものであります。更には、理工学系研究ニーズが明確になれば、他の研究ファクトリーと効率的にリンクすることが可能になります。前述しました知のシナジー、異種の発想の恩恵を会員企業の皆様が得られれば幸いであります。

皆様、どうぞよろしくお願いいたします。


次回の更新は3月13日(金)に行います。