[ STE Relay Column : Narratives 079]
金紅愛 「私のパラダイムシフト」

金紅愛 / 早稲田大学経営管理研究科 / 亀田製菓株式会社

[プロフィール] 中国吉林省出身。高校までの18年間を中国で過ごし、秋葉原にある日本語学校に単身留学。その後、駒澤大学経営学部を経て、不動産会社に就職。賃貸・売買物件の個人営業や外資系企業の転勤族、各国の大使館から依頼される外国人居住者への住まい提案営業、外国人向けフリーペーパーへの情報掲載、プロモーション立案実施等のマーケティング業務、人事担当業務、教育制度整備等9年間経験を積む。その後、亀田製菓株式会社へ転職。大手スーパーマーケット、ドラッグストア企業向け全国本部担当として、提案営業経験を積み、現在はコンビニエンスストアチームに所属。営業の提案力を磨くため、2019年4月早稲田大学経営管理研究科(夜間主総合)に入学、現佐藤克宏ゼミ(戦略とファイナンス)所属。在学中の2019年5月22日、男の子を出産し、育児&勉学を奮闘中。

2019年度秋クォーターの「技術・オペレーションのマネジメント「TOMJ: Technology and Operations Management(Japanese)」授業を終えて、私はしばらく一人で考える時間が必要だった。何日間かこの授業で学び、感じたことが頭から離れなかったのである。この授業で私は何を学んだか?知識を超えた、何かが私に訴えてきている感覚から離れなかった。それは、今までの私の思考習慣だったり、価値観だったり、先入観のようなものが変化したことを受け入れる時間が必要だったのではないかと今は思う。
この授業を通して、牧先生との出会いで自分がどう変わったのかをお話をしたい。

授業を履修したきっかけとなった牧先生との出会い
私が初めて牧先生を知るきっかけとなったのは、春クォーターの金曜日の夜に行われる夜間主総合学生向けプレゼミの授業であった。「サイエンスとイノベーションの経営学」というタイトルで「科学的思考法」、「相関関係と因果関係の区別」、「イノベーションを阻害する要因」について授業を行った。それまでに、私は「科学的思考法」という意味を知らなかった。相関関係、因果関係も何となく使っていた言葉だった。私にとってとても斬新でインパクトのある分野で、先生の研究分野にとても興味を持つようになった。そう、先生の授業を履修してみよう!!と思った。

また、イノベーションを阻害する要因としての現状維持バイアス、「常にトレードオフで利得より損失の方が大きいと感じることが多い」というお話をされた時は、自分自身に置き換え、常に楽をして生きていこうとする現状維持思考、目の前の利得を選択してしまう自分の弱みを先生との学びを通して、克服したいと思った。先生は私を変えてくれるはず!!と直感的にしかも、勝手にずっとそう思っていた。故に、春クォーターの時点からずっと狙っていた授業でもあった。
そしてこの時、先生は非常に教育熱心で、学生への思いが強いということも感じた。今では「牧案件」で有名な話が多いことも学生の中でも良く知られていることだ。当時、出産を控えているプレママとしての私は、牧先生のこのような姿勢とスタイルから力と勇気をもらった。

初回の授業で勉強の仕方を教わった
初回の講義では「デザイン思考」が取り上げられていた。先生はデザイン思考がどういうものかを説明するより、やってみた方が分かると話された。実際私たちに問題を出し、ペアとなった相手のインサイトを聞き出し、プロトタイプを創り、その発表の一連の作業を行った。先生の指示の手順に従って作業は進むものの、私の頭の中は「いったいデザイン思考の定義とは何?」というはてなマークでいっぱいで、心をもやもやさせていた。この日、先生は結局最後まで、「デザイン思考とはこれだ!」という定義を直接言葉で示すことなく授業が終わった。そして、授業が終る頃、「本日の参考文献」としてペーパーを持って帰るように配った。そこには「Ideoデザインシンキング」、「誰のためのデザイン?」によるデザイン思考に関する理解が深まる文献が沢山あった。
私の中での「学校」というのは、先生がゼロからすべて教えてくれることが前提となっていたと思う。この初回の授業を通して、残った疑問やもっと深く学びたければ、参考文献やインターネット等を使い、自主学習をすることが当たり前のことだと気が付いた。どれだけ今まで先生たちに甘えてきたのかなと恥ずかしく思うぐらいだった。その後の授業からも、先生は毎回講義内容に関連する論文や、参考ペーパーを配ってくださる。とにかくバックが重くなるが、学びも深くなるので、ありがたい。後からわかるが、授業でカバーできていない部分についてはFacebookグループで質問することもできるし、議論を持ち掛けることもできる。授業を終えてからのラーニングコミュニティーが活発に行われ、知識レベルがあがり、視野が広がることを実感した。

全体の授業を通して得たもの
授業はInteractive形式で行われ、毎回授業で取り上げられているケースや、テーマは違う。しかしながら、授業の後半からわかることだが、15回の授業が実はつながるように工夫されている。
バラエティー豊かで、最新のケースもあれば、古い過去のケースもある。また、授業で扱う理論も毎回異なり、新しい理論を学び、ケースでディスカッションをする。後半のある時点より、具体例をみて、理論を導くトレーニングが始まる。前半で学んだ理論が続々と仕掛けられているケーススタディーであり、びっくりするぐらい、先生が前半の授業でどれだけ工夫して仕掛けをしたのかと感心する。なので、前半の理論を学びきれなければ、後半のディスカッションが難しくなる場合がある。でも大丈夫。後半もう一回取り上げることで、知識は定着していくので、この授業を通して、知識量が圧倒的に増えることも実感することができることを伝えたい。
また、ケーススタディーのディスカッションでは、ビジネスモデルや、戦略等の範囲を超え、倫理的側面、人の道徳、モラルのような議論もしていき、それはとても心に刺さり、モノの見方や、考え方が変わり、深く考えさせられることがしばしばある。また議論を通して他人の考え方を受け入れることにより、価値観や人生観さえ変わる体験ができる。
また、牧先生は授業で他人への貢献度を非常に重視している。お互いに貢献し合う意識をもつことにより、Narrativeな学習の場が生まれる。この一体感もぜひ味わってほしい。

この授業が終えてできた学びのコミュニティー
この授業を一緒に履修した同級生はみなとても熱心で、お互いの学びへのモチベーションが高い。授業内容に関してのディスカッションは、講義が終わってもFacebookグループで議論をし、惜しみなく情報交換をする。それ以外でよい思い出と残っているのは、授業中先生が紹介した映画を観ようと一緒に履修していた小川一幸さんとネットで探しまくったことや、石川寛和さん、中本広計さんと一緒に(ケースで取り上げた)ベニハナのお店を実際訪れ、うろうろしたのも良い思い出となった。オンラインを活用した自主課題をしたとき、同じクラスの吉内裕行さんが想像を絶する1200回程のシミュレーションに挑戦した熱意にはとても感心し、結果的に1位にはなれなかったものの(笑)とても尊敬した。様々な交友関係ができ、楽しい思い出も沢山残った。
今は、石川寛和、大槻一文さんと一緒に、次の春クォーターに予定されている牧先生の授業の事前予習を毎週1回開催することになった。先生に頼り切りが当たり前だった私が、自主予習をするようになった、そして、仲間と一緒に学習するというコミュニティーを形成し、モチベーションが上がり、楽しいことが増えたと思う。在学中も、卒業後もこのようなラーニングコミュニティーが継続できるように、先生が大事にされている“favor bank”を大事に扱い、より豊かなネットワークを作っていきたいと思う。

最後に、献身的なTAさんたちと、ボランティアさんにお礼を申し上げたいです。遠隔操作授業の際には、松田大さんのおかげで、最後まで授業に出られることができ、他にも皆さんに助けられたエピソードがあまりにも多く、全部語りきれませんが、私がもし今後TAという立場になった場合は見習おうと本心から思いました。本当にありがとうございました。


次回の更新は2月21日(金)に行います。