佐々木 威憲 / 早稲田大学大学院経営管理研究科
『あぁ 神様オレは 何様ですか』
私の大好きな曲、ウルフルズの「暴れだす」の始まりの一節です。
私にとって牧ゼミでの2年間は、『自分は一体何者なのか』という答えなき問いへの旅となりそうです。
前職での文化祭的生活
早稲田大学ビジネススクール(WBS)牧ゼミ所属の佐々木威憲と申します。
私は昨年12月まで(株)TBSテレビで勤務していました。TBSでは主にスポーツジャンルを担当し、自分でデジカメを使って選手の映像を撮影したり、その映像を基にVTR作成を行ったり、また技術スタッフと協力してスポーツ中継番組を制作したりしていました。
仕事のスタイルは、一般の方々の想像する(?)テレビ局そのもので、AD時代は会社で寝泊まりすることはありふれた日常の1ページ、ディレクターになっても忙しい時期は徹夜することもしばしば、隙をみて夜中から飲みに出かけては会社に戻って寝る、といったこともあり、「毎日が文化祭」といった生活でした。(ちなみに、私が退職する頃には、働き方改革の波により、労働環境は相当改善されていたことを追記させて頂きます。)
事業承継の決断、そしてWBSへ
こんな私が、WBSへ進学したのは、ファミリービジネスの事業承継を決断したことがきっかけです。ファミリービジネスは祖父が創業、現在父が2代目として経営しており、小・中・高校用の教科書出版を主な事業としています。そもそも私はTBSへ就職する際は、全く事業承継をするつもりはなく、世の多くの人々に自分の作った番組を届けられるという仕事に魅力を感じ、純粋にテレビ局で働きたくて入社しました。社会人になってからも、父から事業を継げと言われたことはなく、むしろ、「テレビ局に入れたことは幸運で、自分のやりたいことを出来ているなら別に継がなくていい」、と言われていました。
そんな中、私が事業承継をする決断をしたきっかけは、父の苦しむ姿を目の当たりにしたからです。数年前、会社の経営状況が芳しくなく、父は精神的に非常に追い込まれていました。その姿を見たとき、祖父が創り、父がこんな想いをしてまで受け継いでいるものを、自分には関係ないとは言えない、これは自分が継ぐべき事業であると感じるようになりました。また私自身、自分の生き方の指針となっているのは小学校5・6年時の担任の先生からの教えであり、教育分野に対して元々関心がなかったわけではありませんでした。勿論、入りたくて入ったテレビ局の仕事は、とても楽しく充実していたので非常に悩みましたが、このまま事業承継しなかった場合、自分は一生胸に何かがひっかかったまま生きることになると思い、ありきたりな言葉ですが、どうせ後悔するならやって後悔しようと、最終的に事業承継することを決断しました。
さて、事業承継の決断をしたのはいいものの、ここからが問題です。如何せん、テレビ局という、ある意味特殊な世界で生きていた私には、一般的なビジネスの知識は皆無で、BSと言えば衛星放送、PLと言えば甲子園の常連だった強豪校がまず頭に浮かぶといった状態でした。また、大学時代もアメリカンフットボール部に所属し、全てを部活に捧げるという名目のもと、まともな勉強をしていなかった(当然のごとく、1年留年)私には何の知識の蓄えもありません。このままでは、ポンコツ息子が3代目で家業を潰すという世間でよく言われるパターンにはまってしまうと危機感を抱き、WBSへの進学を目指すようになりました。そしてビジネススクール進学のための予備校にも通い、何とかWBSに入学することが出来ました。
牧さんとの出会い
私が牧さんと初めて出会ったのは、各教授によるゼミ紹介プレゼンの日でした。結果的にそのプレゼンで私は心をがっちり掴まれ、牧ゼミを志望することになるのですが、正直に申しますと、プレゼン前までは牧さんがどんな人かさえよく知らず、当然のことながら牧ゼミに入ろうという意志もありませんでした。今でも心に残っているのは、プレゼン冒頭で、牧さんが「ビジネススクールに来たからには、ドローン飛ばしたり3Dプリンターぐらい使えるようにならなきゃダメですよね」とおっしゃったことです。何かこの人は不思議なことを言い出したぞと思いながらも、その言葉が心に刺さり、その後は牧さんの情熱溢れるプレゼンに引き込まれ、最後に牧ゼミの理念?である、「今日は昨日までできなかったことだけをやってみたい人へ」という言葉でトドメを刺されました。その後、面談をして頂き、私のファミリービジネスである教育分野に関して、牧さんも非常に熱をお持ちで、ご自身の母校である慶應高校でイノベーション教育に関する授業を実施された経験をお持ちだったこともあり、もはや私の中では牧ゼミ以外は考えられない状態となり、結果的に幸運にも牧ゼミに所属させて頂けることとなりました。
牧ゼミとは?
牧ゼミには尖ったメンバーが揃っており、様々な特徴があると思うのですが、その中でも私にとってインパクトの大きかった2点を述べさせて頂きます。
1 抽象化⇒実務への活用へ!
牧ゼミでの学習は、本の輪読やケース・スタディ、ゲストスピーカーとのディスカッション、データ分析など、その範囲は多岐に渡りますが、全てに共通していることは、最終的には全てを抽象化し、自分の実務にどう活かすのかという思考が求められるという点です。このことは、牧さんはどちらかというとアカデミック教員だと思っていた自分にとっては意外でした。このことで、一見自分とは関係ない分野のことも、全てジブンゴトとして還元されていると感じています。
2 牧さんの情熱
私が牧さんの学生への情熱を感じたエピソードを1つ紹介させて頂きます。
それは夜間主総合M2の方の卒業論文テーマ候補発表の日でした。ある方が発表をされた後、牧さんは、「このテーマは、あなたの人間としての器、意志に対して、スケールが小さいのではないか」とおっしゃいました。このコメントに、私は非常に大きな衝撃を受けました。WBSに様々な教授がいると言えど、この視点からコメントするのは牧さんだけではないでしょうか。うまく説明できないのですが、このコメントから私は牧さんの並々ならぬ学生への情熱を感じ取り、牧ゼミに入ってよかったと改めて思いました。
自分は一体何者なのか?
私は牧ゼミに所属して、MBAを取得し実務に活かしていくために学んでいるだけではなく、何かもっと大きな人生のテーマを学んでいると思っています。牧さんがはっきり言葉にしておっしゃるわけではないのですが、私は、「自分は一体何者なのか」ということを常に問われ続けているような気が勝手にしています。牧さんからの溢れる情熱に応えようとすると、自然と、自分は何者なのか、何がしたいのか、どうなりたいのか、そういったことを考えさせられる日々です。
私は、一般的なビジネスに関する経験が少ないため、自分に対して勝手に?コンプレックスを抱いています。事業承継をして、祖父・父と受け継がれてきたものを本当に自分が繋いでいくことが出来るのか、不安しかありません。一体自分に何が出来るのか、見当もつきません。ビジネススクールに進学することを決めたのには、この不安を少しでも払拭したいという理由もありました。しかし入学して感じるのは、この不安はファミリービジネスを承継して、実際に経営をしてみなければ払拭できないということです。いくらWBSで熱を持って取り組み、様々なことを学んでもこの不安は消えないと思います。
では、ビジネススクールにきた意味はないのか?決してそんなことはないと、断言できることもまた事実です。ファミリービジネスの承継者としてチャレンジしていく、そのスタートラインに胸を張って立つための土台を、今は作っているのだと自分では思っています。牧さんには、教育分野で活躍している方との交流の場を多く与えて頂いたり、また牧さん自身から教育のことについて教えて頂くこともあります。その中で、ファミリービジネスにおいて、自分は誰のために何がしたいのか、おぼろげながら見えてきている気がしています。その想いを必ず形にできるよう、日々チャレンジしていきたいと考えています。
昨日までできなかったことが、今日できるようになるために。
「自分は一体何者なのか」
一生答えが出ることのない問いだと思います。
一方で、上述した小学校の担任の先生からの教えの1つに、「自分の心は自分が知っていて、嘘はつけない」ということがあります。いくら周りの人に言い訳をしたり、全力でやっているフリをしても、残念ながら自分には嘘はつけず、自分が妥協していることを自分は知っています。
「自分が何者なのか」、その答えに少しでも近づくためには、周りからの評価ではなく、自分の中でやりきったとどこまで言えるか、その経験を重ねていくしかないのではないかと、今は感じています。
牧さんの情熱に負けない熱で、自分の中でやりきったと言えるように、人生を精進していきたいと思います。
次回の更新は9月6日(金)に行います。