引寺 佑輔 / 早稲田大学大学院経営管理研究科ファイナンス専修修了 / 株式会社日本政策金融公庫
2010年関西学院大学法学部法律学科卒業。株式会社日本政策金融公庫に入庫。債権管理、与信判断業務を経て、2016年からリスク管理業務に携わる。
2019年3月、早稲田大学大学院経営管理研究科ファイナンス専修修了。
1.受講理由
「科学技術とアントレプレナーシップ」を受講したいと考えた理由は、イノベーションの源泉についてアカデミックに考えるということに興味があったからです。また、「WBSで最も負荷の高い授業」とはどういうものか実際に体験せずにはいられないと思ったからです。
2.授業とLearning Community
この授業は、牧先生とTAの佐々木さんにより多くの工夫が散りばめられています。様々なツールを駆使することで「受講者が考えること」をサポートする仕組みが徹底されていることに感動しました。例えば、sli.doというツールを使って、受講者が匿名のチャット形式で質問をすることができるのですが、この授業の受講生は、受講生同士が互いに教え合いをしていてとても良いコミュニティだなぁと感じました。
授業のスタイルは、予め配布される定量研究論文を読み込んで授業でのディスカッションに備えるスタイルです。時折、牧先生からのコールドコールが飛んでくる可能性があるので、緊張感を持って授業に臨む必要があります。しかし、決して無茶ぶりなどではなく、いくつもの導きを示しながら受講生が自身で考えて発言できるよう促す優しさがあったと思います。授業後には、授業に関するtake awayを提出し、次の授業の冒頭でフィードバックされるので、受講生のモチベーションが高まるような工夫がなされています。併せて「前回の授業から得たことで今週実践したこと」について問いかけられるので、理論をすぐにビジネスで活かしてみるという発想も社会人大学院生らしくて良かったと思います。
さらに、この授業のすごいところは、facebookの授業グループにおいて、受講生が、授業の中での疑問や、授業で扱ったテーマを実務でどう導入するかなどについて活発にディスカッションが行われいるところです。このメンバーと一緒に学ぶことができたことは、本当に貴重な経験だったと思います。
3.今後の課題
さて、この授業で学んだことをどう活かしていくのかについて示したいと思います。技術指向のベンチャー企業や成長型の中小企業の技術力を客観的かつ定量的に評価できる指標について研究していきたいと考えています。
私は、中小企業向けの融資に携わっていて、企業の倒産予知やリスクの計量に関する分析を行っています。金融機関の与信業務において、融資金が回収不能となり金融機関が損失を被る信用リスクを適正に評価することがとても重要です。そのため、企業の倒産予知に有用な変数の探求や企業価値を表す指標に関する研究を行っています。近年、政府は知的財産推進計画を策定し、企業が知的財産を事業に活用することを奨励し様々な支援を行っているので、特許などの知的財産権を活用する企業が増加している傾向にあります。今後益々、金融機関は、与信判断時において企業の知的財産権などを活用したビジネスの価値や評価を行い、信用リスクを適正に定量化することが求められていくと考えています。特に、技術指向のベンチャー企業や成長型の中小企業においては、優れた技術を活用する事業に将来性を見いだせたとしても、研究開発費の増加によって財務諸表上の経営状態や経営成績が悪化することも考えられます。金融機関の与信判断では、財務情報による評価が中心になるので、財務諸表が悪化している場合には新たな貸出が困難となることや、既存貸出金の回収行動に移行する可能性があります。また、知的財産権は財務諸表上オフバランス化されるので、資産としては過少に評価されてしまうケースもあり得ます。過去の実績である財務情報中心の与信判断がなされると、このような中小企業が円滑に資金調達を行うことが困難となるでしょう。そのため、技術指向のベンチャー企業や成長型の中小企業の技術力を客観的かつ定量的に評価できる指標について研究することで、金融機関がこのような企業を適正に評価し、企業の進出をサポートできるような貢献をしたいと考えています。自分の力で考え学んでいく基礎をこの授業を通じて得ることができたと思いますので、さらなる高みを目指して引き続き学んでいきます。
あと、私は、牧先生が顧問、田中達也さん、羽鳥百合子さん、星野祐介さんらが幹事を務めてくださっているデータ分析部の活動に参加しています。こちらも素敵なLearning Communityだと思いますのでご興味のある方は一緒に学びましょう。
4.最後に
最後に、このような素敵な授業をしてくださった牧先生に感謝いたします。また、このようなコラム執筆の機会もいただけて本当に光栄に思います。
一緒に授業を受けてきた皆さんも本当にありがとうございました。もし修士論文執筆で悩むことがあれば、いつでも声をかけてくださいね。一緒に悩みましょう。
次回の更新は8月30日(金)に行います。