[ STE Relay Column 021]
細井 雄大 「MicroMBAで学んだこと」

細井 雄大 / 株式会社メルカリ 

[プロフィール]茨城県出身。2012年に慶応義塾大学経済学部を卒業後、独立系システムインテグレータに入社。4年弱の間、金融系システムの開発・設計全般に従事後、PwCあらた有限責任監査法人に転職。ITシステム構築プロジェクトの第3者評価やシステムリスク管理態勢構築支援の他、事業会社のBCP(事業継続計画)の定着化支援といったIT・業務のリスク関連業務を担当。2018年4月に早稲田大学ビジネススクール(以下、WBS)の夜間主総合コースに入学し、現在修士1年生。年明けにはメルカリのリスクマネジメントポジションに転職し、常に変動する現場と並走する形でリスクの発見と改善提案に挑戦する予定。

WBSに入るまで
大学入学後に全く勉強しなかった私は、ゼミにも入れず、趣味である音楽やアルバイト、そして借金をしてまでお酒に溺れていました。卒業が迫り、進路の選択では就活をせずに東京都庁を受験しました。民間企業の営業のような競争世界で戦う気がしなかったことが主な理由です。しかし、筆記試験に落ち、残っている民間企業の中で上場企業を数社受け、その中で人と関わらないでよさそうというイメージでプログラマーの道を選択しました。そんな調子ですから、入社後も落ちこぼれからスタート。楽器も辞め、ももいろクローバーZのライブに行くことだけが生き甲斐でした。途中からこのままショボい人生で終わりたくないと考え、資格取得や副業、MBAの体験授業等に手を出し、自分の市場価値を高めることを試行錯誤しました。4年目が終わる頃、営業への異動が決まり、人と接するのであれば人のために尽くす仕事が良いと考えたことから、監査法人に転職しITアドバイザリーを行うことにしました。
真面目にビジネスに向かい合ううちに、ビジネスパーソンとしての基礎である論理性、プレゼンテーションといったソフトスキルが弱く、業務的にもボトルネックになりつつあったので何とかしなければと常々思っていました。また、いずれ自立して生きていきたいと漠然と考えていたこともあり、ソフトスキルと共にビジネススキル全般が学べるMBAに興味を持ちました。そして、MBAの中でもキャリアの軸であるテクノロジーの専門性を深掘したい、理論的にも一つ太い軸を持ちたいと思う気持ちから、ゼミでの研究があるWBSに入学しました。

MicroMBAを選んだ自分(マイクロでもマクロでもよかった)
MicroMBAを受講したきっかけですが、WBSの講義が無い期間に英語で講義が行われると聞き(しかもWBS現役生は無料)、内容も確認せず出会って5秒でエントリーしました。英語による授業があるということもWBSの魅力に感じていた点でした。WBS生には英語の学習を放棄している人も多く見かけますが、私は縮退する日本と共に沈没したくないので、英語をいち早く手段として身に付けたいです。テクノロジーにそんなに疎くないと自分で思っていますが、翻訳のテクノロジーのシームレス化、それが文化として受容されるまでには、早くても数年はかかると思います。そんな長時間、自分は待っていられないです。少しでも早く、英語は学ぶものではなく手段として使わなくてはいけない。肝心の内容については、正直その段階では何でも良かったです。

MicroMBAに臨み
講義内容がMBAのエッセンス的な授業のオムニバスであることは予想していましたが、蓋を開けてみると、それはとても充実した内容でした。USCD側は「Power & Leadership」、「 Difficult Conversations」、「 Cultivating Creativity」とソフトスキルよりの講義。WBS側は正にMBAの基礎と言えるマーケティング、ファイナンス(&アカウンティング)と、牧先生によるイノベーションマネジメントの講義がそれぞれインタラクティブな形式で行われました。いずれもテーブルがA~Fくらいまである中、それぞれがアバターを移動して座らせたテーブルの3人~5人位の中でグループディスカッションの時間が設けられます。教員側の操作によって、同じテーブル内だけで会話・チャットができるようになります。そのグループディスカッションを経て、全体での討議に移ります。そこではボタンの操作により「挙手」で発言を行うことや「チャット」でいつでも質問を投げることが可能です。そして、纏まったテーマの最後に先生によるラップアップが行われるというのがオーソドックスなパターンでした。WBSでの講義と同じ流れです。

授業に15分くらい遅れて皆さんを待たせてしまい、全員に向かって謝る所から始まった私のMicroMBAですが、仮想空間で路頭に迷った挙句、たどり着いたクラスルームの中の4人くらいのテーブルに座りました。英語が流暢な外国人の方から、理系の院生、自分と同じようなWBSの学生で英語を頑張り中の方と、多様な参加者がいて楽しかったです。最後の講義と授与式は出られなかったので、友人を作れた程ではないけれども、この人はリードする気質があるなとか、この人が一緒だとファシリテーションしてくれて話し易いな、とか次第にキャラクターを何となく掴んでいました。

※画面の左上の「GO TO」からクラスルームに瞬間移動できます。私は「Top of left」を誤って解釈し、地図上の北西の最果て、灯台にまで行って皆さんを待っていました。

1点、それまで半年のMBAの講義にて経験してこなかったのが、「コールドコール」です。これは先生が受講生に対し、「What do you think, Yudai?」と突然意見を求めてくるものであり、MBAレベルの講義だけに中々答えに窮することも。そもそもMBAでの講義では誰かが手を挙げるのが常でしたが、英語でオンラインシステムであったためか、第1回目の「Power & Leadership」では少し発表も消極的であり、私が一発目にコールドコールを受け、少し面喰いました(笑)。授業に遅れて謝る所から始まったのが原因かもしれません。ちなみにこの「コールドコール」はWBSにおいては牧先生の授業で味わうことができます。

MicroMBAで学んだこと
内容的にはWBS側の講義、樋原先生の「Financing for Innovation」ではファイナンスと会計の違い、互いの関係を改めて学び、整理することができました。牧先生の「Management of Innovation」では、技術革新とだけ漠然と捉えがちなイノベーションという言葉について、多角的に認識することができ、自分の中で何となくのバズワードから、実態を伴った概念へと変わっていきました。USCD側のものは日本のMBAでカバーできていない部分をチョイスしているのかと推察しますが、いずれもビジネス上で問題となる漠然とした問題に対し、心理学や社会学の観点からアプローチするような興味深い内容でした。MBAの王道科目のさわりから、専門知識を伴わない普遍的なテーマまでですので、内容で置いて行かれるという事はないと思います。実際、理系の大学院生と思わしき方が自分より良いことを言いますし、テーブルをリードしていました。MBA学生の方でも新しい学びや復習となりますし、それ以外の方にとってもビジネスに直結するテーマのエッセンスが学べる内容だったと思います。

そして内容以外について。仮想空間の中でスライドを投影し、挙手をし、テーブルに座り、アバターを用意する。合理的な考え方をする人にとっては何がやりたいのか分からないかもしれません。しかし、私にとってそれは「めちゃくちゃ面白そう」と映りました。テクノロジーと人の感情の機微といった所に非常に興味がある私は、アバターを通したディスカッションは円滑に進むのか、オンラインでの発言はどのような心持ちになるのか、議論は収斂するのか。こういった一つ一つの細かい論点はGoogleで調べて分かる程ストックされた情報ではなく、実際に当事者として新しい試みに参加して、ある種の仮説検証をしないと分からないものだと思っています。実際に、WBS側の樋原先生や牧先生は大分思うどおりに進行できず慌てているシーンもありました(笑)。これからもVRの技術はじめ、テクノロジーにより確実にコミュニケーションの在り方は多様化することが想像されますから、過渡期の今、この仮想空間における講義に参加することは、新しいコミュニケーションスタイルを体感できることに他なりません。テクノロジーを学ばないことはビジネス上死ぬ(勝ちを諦める)ことと同じだと考える自分にとっては大変実りを感じるものでした。

未熟な英語での討議。得体のしれない人との協働。知らないテクノロジー。コールドコール。これらは自分にとって今でも怖いし、乗り越えられていない部分も多いです。しかし、よくわからないことに身を突っ込んで自分の心身で実験をしてみると、自分に足りないことがハッキリ分かるのでとても学びが多いです。しかもそういう環境では自分に足りないものを持っている人に出会えますし、面白い人がいたりします。春にWBSで思い切って履修した英語の講義では、このコラムの前に登場した草地慎太郎さん(私のアバターのモデル)、林田丞児さんという知的で魅力ある方々に出会うことができました。そしてMicroMBAでは、牧先生の面白い講義に出会えました。改めて、飛び込んで良かったなと思える体験だったと思います。
以上

 


次回の更新は12月14日(金)に行います。次回は早稲田大学ビジネススクールのHuan Xuさんの「An Insider’s View of Maki Zemi」です。