草地 慎太郎 / IDC Japan 株式会社
あれからもう1年か。
季節の訪れから、自身のターニングポイントを思い起こし、あれから何年たったなどと時の流れの早さを思うことが誰にもあるのではないでしょうか。
はじめまして、牧ゼミM2の草地 慎太郎と申します。
今回のSTEリレーコラムを担当させていただきます。私がSTEの輪に入ることになったのはちょうど一年前でした。
10月も後半に入り冷たくなる空気とは反対に早稲田大学のキャンパスは11月初頭の早稲田祭に向けてポスターや立て看板から立ち上る若い学生たちの熱気が増していきます。もちろん壮年の勤労学生たるビジネススクール(WBS)生には縁のない世界ですが、WBSの一部は別種の熱気に包まれる時期なのです。ゼミ選考です。
WBSにはいくつかのコースがありますが、私の属している「夜間主総合」コースでは1年目の秋に自分の所属するゼミを選択することになります。WBSでは魅力的な教員による多くのゼミ開講されており、学生は自身の希望するゼミに所属し2年目一つの大目標である修論執筆に向けて指導を受けます。一方で各ゼミには一律に定員が定められており、希望のゼミに必ず入れるとは限りません。結果としてどのゼミに志望を提出するかで学生は楽しく頭を悩ませるわけです。夜間主総合性にとって1年目の秋は2度目の受験の季節であり、人生のターニングポイントをつかみうる時期でもあります。
今、1年後輩のゼミ選考を意識しながらこの原稿を書いていて、私自身が1年間を振り返り、今後に思いを馳せるにつけ1年前の選択が大きな転機であり、今後にポジティブな変化を与えるであろうことを確信しています。
私のゼミ選び:何を得ることを期待したか
志望するゼミを選ぶにあたって、学生は授業や、面談や、先輩/同輩のネットワークを通じて様々に情報を入手し志望先を決定していきます。志望理由としてはゼミで受けられる教育プログラムの内容であったり、自身の行いたい研究との適合性で合ったり、キャリアや業界の近しさであったり、様々かと思います。私自身もそれらを意識しつつ、最も強く意識したのは今後の長いキャリアを考えたときにポジティブな変化が与えられるか、長期的な関係が持ちうるかという事でした。M2の一年間で教えられることだけでもないし、MBAを取得してどこかいい会社に転職してゴールという事でもなく、もっと長期的なサポートや相互の刺激を与えあえるような場所がいいなと思っていました。
私は今のアナリストの仕事を楽しんでやっていますし、業界では評価されている会社に所属しています。それでもこの先20年、25年と同じ会社で同じ仕事をやり続けるかどうかはわかりません。私自身のキャリアを振り返ってみると大学を出て最初に入った会社は当時世界的に評価されていた大手のコンピューターメーカーでしたが、ネットバブルの崩壊とLinux/PCサーバーの破壊的イノベーションにより数年でなくなりました。内定時に100ドルだった株価が入社時には20ドルになり、最後には3ドルくらいになっていて、行使できない紙屑のようなストックオプションを貰ったのも今では笑い話です。次に入った通信系のベンチャーも一定の成功を収めたものの数年で同業に買収されてなくなりました。変化の激しくなる社会の中で自分自身も変化し続けなければならないし、そのために継続的な刺激を得られるであろう場所を選びたいと思いました。
そういう期待を抱かせるうえで昨年の秋に受講した牧さんの「技術とオペレーションのマネージメント」の授業は出色でした。インタラクティブ性の強い講義の中で学生の熱意を引き出すのがうまかった。これはテクニック的なものもあると思いますが、年齢の近さや学生のキャリアに対するリスペクトといったものがより水平的な関係につながっているように思えました。ランガー研究室のケースで示された人的なエコシステムの形成というのも自分の期待していることに近しいように思えましたし、牧さんのネットワークから呼んでこられる多彩なゲストもそれを証左しているように感じました。
そんな授業での体験と自分の期待のマッチングを感じてゼミを志望し、無事入ることができたのがおよそ1年前です。
ゼミでの体験:得ることと与えること
ゼミ生が決まって最初の段階でいくつかのポリシーが示されました。そこにはゼミのメンバーの関係は長期のものであるからまず与えることを優先的に行っていこうという事が書かれていました。短期の関係であればGive and Takeを意識しないとリスクを持つことになるが、長期の関係を前提とすればどこかで帰ってくることを前提に与えることだけを考えて行動すればより大きな互恵が得られるという事です。これは長期の関係を前提にという自分の期待にもあっていましたし、一方で自分が何を得ることだけでなく、何を与えるかという事をより意識することになりました。
牧さんはそのようなポリシーに対して率先的であり、学生がやりたいことに対して可能な限りのリソースを割いてくれます。そして、その知見や周辺の人々の力を使って学生が事前に思っているよりもよほど大きな可能性を示してくれます。
例えば、学生はゼミに入った段階で英文履歴書(CV)の作成を求められます。さらに、作成したCVはゼミ内でのレビューの後に西海岸でヘッドハンターとして活躍されている、立野さんに見ていただきアドバイスをいただくという機会を得ました。何度か転職を経験している私ですが、より高い視点で自身のキャリアの可能性を指摘されて自身の価値の見方が変わりました。
サンディエゴで行われたゼミ合宿では、現地の学部生のビジネスアイデア発表に対してゲスト審査員の立場で入らせてもらったり、現地の日本人ネットワークの中で海外で働く方々のお話を伺ったり。なんといっても、私の研究テーマの分野における権威であり牧さんの恩師であるLynne Zucker、Michael Darby両氏に研究のコメントを頂く機会をもらう事もできました。
さらに、私がアイデアベースで出した酒蔵のテクノロジー活用のケース作成も、すぐに同県のお知り合いと連携を取って社長とつないでもらい取材に至ることができました。面白いとさえ思ってもらえれば、学生の将来にポジティブだと思えば最大限リソースを割いてくれるのは牧さんの非常に魅力的なところです。
同期の仲間も率先してゼミ長に就いた松田さんをはじめ、畝村さん、高山さん、林田さん、山内さんとゼミのポリシーを体現するように非常に充実したゼミ生活を過ごすことができています。
これから:広がるSTEの輪の中で
今後私たちは修論の執筆が佳境に入ります。私は「AI研究における産学連携」をテーマに調査を進めています。牧さんの専門分野と自身の業務分野を掛け合わせたようなテーマで、スターサイエンティスト研究のグループや先述のZucker & Darbyとの面談も含め大きなサポートを受けながら進めています。ただ、修論は一つの重要なプロジェクトですが、これからの長い関係の序章のようなものかもしれません。今はまだTakeが圧倒的に大きい状態ですが、自身の成長を通じて、ゼミやSTEのエコシステムの中でより多くのGiveを提供していきたいと思います。
次回の更新は11月2日(金)に行います。アステラス製薬株式会社の林田 丞児さんです。